鐘愛

2023.06.27

鐘愛Yuki Ideguchi/出口 雄樹

素材・技法:キャンバス・膠・胡粉・顔料・ピグメント・スプレー/2023年
サイズ:46.0×54.0cm

浮世絵に今を取り込んだ、
出口雄樹が紡ぎ出す現代アート

出口雄樹は、江戸時代の浮世絵作家・葛飾北斎を敬愛している。北斎が描いた肉筆浮世絵と同じような技法で描きながら、アクリル絵具などの現代の画材やスプレーなどの機材も取り込んで、キャンバス上にコンテンポラリーな日本画を展開している。出口には、「歴史、生と死、水と海」という明快な3つのテーマがある。描かれるのは歴史上の人物や死を象徴するどくろ、滝、そしてこの鯨など海の生物だ。福岡県出身で、海に親しんできた出口ならではのモチーフは、明快でポジティブだ。

鐘愛

「鍾愛」というタイトルは、厚く愛することを意味する言葉。出口が愛するモチーフである鯨に葡萄唐草を重ねている。葡萄唐草は、正倉院の御物にある文様で、西アジアが起源。シルクロードを通って、中国から日本に伝わった。途切れのないデザインが永遠、不死を意味している。出口は東京藝術大学時代に解剖学を学んで、動物の骨格の美しさに目覚めたという。描かれているシロナガスクジラの長い胸ビレやしなやかな尾の動きなどは、骨格を把握した上でデフォルメしたもの。日本画に現代アートの表現を持ち込む作家として注目されている。

鐘愛

出口 雄樹◎Shibayama Art Gallery

1986年、福岡県生まれ。東京藝術大学美術学部絵画大学院修士課程日本画専攻修了後に渡米し、ニューヨークを拠点に創作活動を行う。アメリカや日本、フランス、台湾を始め各国で作品を発表し、2020 年より京都に拠点を移す。その技法は日本画にストリートアートのテイストを加味して描く独特のもので、ワシントンポスト紙のアート欄では「コマーシャルアートや漫画から技法を取り入れた出口の作品は、未来に衝撃を与える。」と評される。多くの国での展示会の経験から、明治以前と近現代の間に断絶があることを実感し、日本画の再解釈を行うことで過去と今を結ぶ新たな創作を目指している。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。