Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2026.1.27
「盲愛」
出口 雄樹Yuki Ideguchi
素材・技法:キャンバス・顔料・ 膠・ アクリル絵具・缶スプレー/2025年
サイズ:H38.0×W 45.5㎝
日本人に長く親しまれ、ときに
神聖視される鯨を描き続ける出口雄樹
出口雄樹は、古くから日本人に親しまれてきた鯨を、海を象徴する偉大な生き物として描いている。「鯨は万葉の時代にはイサナ(勇魚、鯨魚、不知魚、伊佐魚)と呼ばれました。尋常でない大きさから『京(10の16乗)』の字が当てられて、鯨となったという説や、鯨を狩る人々は鯨を神聖視し、祈りが受け入れられると鯨が彼らの銛を受け取ると考えていたとする説などがあります」と鯨にまつわる話を語る。東京藝術大学に在学中、東京大学の比較解剖研究室 に出入りして動物の解剖を学んでいた出口は、鯨類の骨格の力強さと美しさに魅了されて描くようになった。出口が最も長く取り組んでいるシリーズは鯨で、学部での卒業制作以来、14年ほど描き続けている。

出口が鯨の体に使っている白い色は「胡粉」と呼ばれる日本画特有の顔料で、扱いが難しい。「白の発色にいちばんこだわりました。鯨が潜る様子を勢いよく描き、美しい青の色彩も表現できるように、構図構成には気をつかっています。色彩の対比や鯨の雄大さを、堪能していただきたいと思います」と出口。鯨の体表の文様は、正倉院宝物のひとつに描かれた唐草紋様を参考にしている。天界に咲く枯れない植物を表したもので、たいへん縁起がよいとされていた。鯨を現実とは違う次元に描くことで、鯨の象徴的な面を強調し、偉大さを感じてもらいたいと、出口は工夫を重ねている。

出口 雄樹Yuki Ideguchi
[Shibayama Art Gallery]
1986年福岡県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、ニューヨークで制作を行い、国内外で多数の個展・グループ展に参加。大学在学中に最高賞を受賞。三菱商事アートゲートプログラム奨学生に選出され、海の日芸術祭で最高位賞を受賞。また、公益財団法人吉野石膏美術振興財団や国際交流基金から助成を受けている。2019年に帰国し、京都府を拠点に活動。同年、歌手の星野源のアルバムジャケットを手掛けた。名古屋、新宿、福岡、京都、仙台、千葉、渋谷と各地で個展を開催。現在は京都芸術大学美術工芸学科の専任講師を務めている。上賀茂神社、北原照久コレクション、明王物産コレクション、Leo Kuelbs Collectionに作品が収蔵されている。