Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「視線の行方」

2026.8.6

「視線の行方」

白石 綾奈Ayana Shiraishi

素材・技法:高知麻紙・岩絵具・墨・銀箔/2026年
サイズ:H53.0×W65.2cm

茂みの中の黒猫と視線が合った瞬間の、
緊張感を描き出す白石綾奈

枝の間にひっそりと身を潜める黒猫が、こちらを見つめ返す。「たまに遭遇する野良猫は、時代が移り変わっても失われることのない『存在の気配』だと感じました。そこで、視線を通じてお互いの存在を確かめ合っているような空気感を表現しました」と日本画家の白石綾奈は語る。白石の作品の題材は常に日常生活の中にある。散歩中に遭遇した野良猫や、雨、植物、夜のコンビニなど誰しもが見たことがあるものに着想を得ることが多い。「この作品は、枝の中に隠れていた黒猫と偶然遭遇して、自身の視線が黒猫と、枝を介して交わった瞬間の緊張感がテーマです」。白石は制作の前段階の構図や絵具の種類、工程を考えることに最も時間を割くという。

「視線の行方」深掘りポイント

「一見すると枝だけが広がる画面ですが、視線を巡らせると黒猫の存在がゆっくりと浮かび上がります。その『気づく瞬間』と、猫と視線が合うわずかな緊張感を体験していただきたいと思います」と白石はいう。「また、銀箔の光を受けて、時間や鑑賞する場所によって異なる表情を見せます。銀箔の、無機質でありながら繊細な素材感も味わっていただきたいです」とも。白石は日本画の画材である銀箔を用いて制作しているが、銀箔はたいへん薄く繊細で、扱いには注意が必要な画材。夏場はエアコンを切って息を止めて汗を垂らしながら作業するのがたいへんだという。銀箔の演出効果を楽しみたい。

「視線の行方」深掘りポイント

白石 綾奈Ayana Shiraishi

2015年愛知県立芸術大学美術学部日本画専攻卒業、同大学大学院美術研究科博士前期課程日本画領域入学。2016年第1回松柏日本画展入賞、第71回春の院展初入選(以後’17、’18、’19、’20、’21年入選)、再興101回院展初入選(以後’17、’18、’19、’20年入選)。’17年愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程日本画領域入学。’21年同大学大学院卒業、博士号取得。