Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2026.8.6
「Under the Moon_Unleash」
出口 雄樹Yuki Ideguchi
素材・技法:キャンバス・顔料・膠・アクリル絵具・缶スプレー/2025年
サイズ:H121.5×W121.5cm
出口雄樹の宇宙への興味が
新しい日本画のジャンルを生む
スペースシャトルからハッブル宇宙望遠鏡が宇宙空間へとリリースされる劇的な瞬間を、日本画家・出口雄樹が描いた。「1990年に打ち上げられたハッブルは、当初は15年ほどの運用予定でしたが、幾多の故障や困難を乗り越え、35年以上が経過した現在も現役で周回軌道を飛び続けています。タイトルの『Unleash(解き放つ)』は、宇宙観測の歴史を塗り替えた、不撓不屈 の望遠鏡の『最初の一歩』を意味します」と語る。出口が小学生の頃はスペースシャトルの全盛期で、目覚ましい活躍に胸を躍らせたという。「2023年から宇宙をテーマに創作活動を行っています。宇宙プロジェクトの興奮やおもしろさを表現し、宇宙の深淵に迫りたいと考えています」。

画面を支配する「宇宙の黒」に注目してほしいという出口。「古今東西のあらゆる黒を試してきましたが、京都の画材店で出会った日本の伝統絵具『水干の黒』が持つ美しさに一目惚れし、以来これを『宇宙の闇』として一貫して使用しています。この黒の吸い込まれるような奥深さを、ぜひ実物の作品で体感していただきたいですね」。水干絵具の黒は反射率が極めて低いので、純粋な黒の色を表現できる。「どこまでも続く悠久の空間を表現するために、星を描かずに黒に徹しています。この純粋な黒色に『無限の彼方へ続く宇宙の巨大さと深さ』を感じていただければと思います」と出口は黒への思いを語る。

出口 雄樹Yuki Ideguchi
[Shibayama Art Gallery ]
1986年福岡県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、ニューヨークで制作を行い、国内外で多数の個展・グループ展に参加。大学在学中に最高賞を受賞。三菱商事アートゲートプログラム奨学生に選出され、海の日芸術祭で最高位賞を受賞。また、公益財団法人吉野石膏美術振興財団や国際交流基金から助成を受けている。2019年に帰国し、京都府を拠点に活動。同年、歌手の星野源のアルバムジャケットを手掛けた。名古屋、新宿、福岡、京都、仙台、千葉、渋谷と各地で個展を開催。現在は京都芸術大学美術工芸学科の専任講師を務めている。上賀茂神社、北原照久コレクション、明王物産コレクション、Leo Kuelbs Collectionに作品が収蔵されている。