Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。
2024.10.1
「バンロッホ ハート マルチフレーム(ラベンダー)VANROGH HEARTS on Multi Frame(Lavender)」
井口 真吾/イグチシンゴShingo Iguchi
素材・技法:アクリル オン キャンバス/2024年
サイズ:H60.6× W60.6cm
井口真吾が描き続けるのは、
かわいいだけじゃないクマのバンロッホ
かわいいけれどどこか不穏な気配のクマの名前は、バンロッホ。井口真吾が30年来描いている、無の世界の住人だ。「1980年代に漫画雑誌『ガロ』に、『Z CHAN』という漫画を描いていましたが、まだかわいさがバカにされていた時代でしたね。バンロッホはそこに登場するキャラクターでした」という井口。その後、BEAMSとのコラボレーションでTシャツに登場するなど、キャラクターとしてのパワーを身に付けたバンロッホは、2000年頃からアートの領域に移動していく。キャンバスに描かれることで、造形も変わってきた。かわいいだけでないクマは、時代を超えて変容し続けている。
無の世界から来たバンロッホのおなかには、大きなファスナーが付いている。ぬいぐるみらしさを演出しているこのファスナーを下ろすと、元の世界に戻ってしまう設定だ。中にはダイヤモンドが詰まっているらしい。両手を前に出した少し前のめりのポーズは探求を示していて、バンロッホはハートを探しているところのようだ。バンロッホはさまざまな色で描かれ、幾何学模様と組み合わせられる。ポップな姿の中に、実は時間と空間が詰まっている不思議な存在だ。
井口 真吾/イグチシンゴShingo Iguchi
[Satelites ART LAB]
1957年広島県生まれ。広島の大学で心理学を学ぶ。1984年漫画「Z CHAN」を発表。以降、「Z PLAN」と名付けられたキャラクターや仮想世界の可能性を探求するプロジェクトを開始。「Z CHAN」の世界をテーマに、漫画、絵本、小説、詩、イラスト、絵画、パフォーマンス、音楽など、さまざまな方法で表現し続けてきた。2010年に上海万博会場内パビリオンで開催された「上海万博開催記念版画展」には日本代表の一人として草間彌生や横尾忠則などとともに選出されている。2000年以降は現代美術の領域が主な活動の場となっている。2021年には広島県安芸高田市美術館で2棟を使用した企画個展が開催された。