Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「小判 東海道 大磯」

2024.12.25

「小判 東海道 大磯」

葛飾 北斎Katsushika Hokusai

素材・技法:木版多色摺/1804~18(文化年間初中期)年頃
サイズ:H12.8×W16.8cm

小判」サイズなら、
浮世絵師・葛飾北斎の版画が手に入る

葛飾北斎は江戸時代後期を代表する浮世絵師。89歳の生涯で、版画、肉筆浮世絵、出版物の原画など、さまざまなジャンルの作品を描いた。高齢になってからも創作を続けたことも知られている。代表作に『冨嶽三十六景』や『北斎漫画』がある。この版画は、「小判」という縦12.8cm×横16.8cmの大きさで、東海道の宿場を描いたシリーズ。北斎が40代の頃の作品と考えられている。版元が絵師にあるテーマを依頼して、絵師が描いた宿場を彫師が版にし、その版を摺師が摺るのが江戸時代の出版だ。この「小判」なら、手に入りやすい価格で北斎の作品を持つことができる。美術品としてはもちろん、歴史資料としても価値のある作品だ。

「小判 東海道 大磯」深掘りポイント

この作品に描かれているのは今の神奈川県大磯町。鎌倉時代、ここには虎御前という遊女がいたという言い伝えがある。虎御前は、仇討ちで知られる曽我兄弟の兄十郎の妾で、その念がこもった虎ヶ石は、美男が持ちあげると軽くあがるといわれていた。北斎は、旅人がその石を持ちあげようとしている場面を描いている。左には石に取り付いている男がいる。その男から立っている男へ視線が移るように、背景の松や土坡どはは右あがりになっている。北斎は見る人の視線を誘導する技術によって、画面を構成したことが分かる。二人の表情は豊かで、旅の持ち物も細かく描かれていて興味深い。

「小判 東海道 大磯」深掘りポイント

葛飾 北斎Katsushika Hokusai

江戸時代後期の浮世絵師。宝暦10(1760)年江戸生まれ。19歳で勝川春章に師事して絵師となる。版画がよく知られるが、肉筆浮世絵、黄表紙、読本、狂歌本、絵手本、春画なども手がけた。中でも『冨嶽三十六景』や『北斎漫画』はよく知られている。