Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「実芭蕉」

2024.12.25

「実芭蕉」

栗原 由子Yuko Kurihara

素材・技法:紙本着彩・箔/2018年
サイズ:H60.6×W45.5cm

眼鏡の距離感でものを見る、
栗原由子の微細な色彩感覚

「実芭蕉」という聞きなれない言葉は、バナナのこと。画面右側の暗赤色のものが花で、これがバナナになる。「モチーフは色で選びます」という栗原の、鮮やかな色づかいは幼い頃から海外で育ったことによるようだ。「子供の頃シンガポールで暮らしていて、熱帯の草花や果物に惹かれてきました。実芭蕉は花が面白いと思って描き始めたのですが、実は幹に描きがいがありました」。「虫眼鏡の距離感でものを見ると、見えてくる色と形があります」と栗原がいうように、作品はモチーフの細部にある色の違いを見事に描き出している。「霜柱や雪、雲、水たまりなどを描くことにも興味があります」という栗原の目が何を捉えているのか、知りたくなる。

「実芭蕉」深掘りポイント

栗原は先にモチーフを描き、背景はそのモチーフに合う色を選んで、後で描いている。この作品の芭蕉の花の部分は暗赤色で、枯れたがくは茶色系で表されている。花とは思えない色合いが画面の中で目を惹く。芭蕉の葉の一部には銀箔を貼り、硫黄で黒く変色させている。これは「時間を描き込みたい」という栗原が考えた方法のひとつ。銀は酸化すると黒くなるので、将来的には銀箔の部分がもっと黒くなるはずだ。「日本画だと鮮やかなものを描いても落ち着いて見える。絵具の質感と色のせいです」と語る栗原。日本画の画材の特性と自身の色彩感覚を発揮した作品には求心力がある。

「実芭蕉」深掘りポイント

栗原 由子Yuko Kurihara

1976年生まれ。小学生時代をシンガポール、中学時代を千葉、高校時代をアメリカなど海外で暮らす。1994年筑波大学芸術専門学群日本画コース入学。1998年筑波大学卒業制作展筑波大学芸術賞受賞。1999年筑波大学修士課程芸術研究科日本画専攻、IOC主催オリンピックアート&スポーツ2000日本代表。2000年佐藤美術館奨学生展、トリエンナーレ豊橋入選、屏風に描く大阪ビジョン21佳作。