Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「《聖猫櫃 - バンダジB》」

2025.1.10

「《聖猫櫃 - バンダジB》」

三宅 一樹Ikki Miyake

素材・技法:木彫(楠・一木彫)/2020年
サイズ:H52.0×W67.0×D31.0cm

神とも人間とも違う、聖なる猫を
木の中から彫り出す三宅一樹

三宅一樹は保護猫を飼って10年になる。毎日猫と接しているうちに、彫刻家として猫をかたちにしたいと考えるようになった。「猫には聖なる感じがあります。人間像をたくさんつくってきましたが、神とも人間とも違う存在が猫の中に見えてきて、私にしかできない猫をつくりたいと思いました」という三宅。神聖な猫をつくったら自分らしくなるのではないかと考え、それをかたちにしたいと取り組んだ。聖なるものは必ず何かにのっているはずと、バンダジを取り入れた。バンダジは韓国の(ひつ)(上部が開く大型の箱)で以前から好きだった家具。使ったクスノキは直径60センチで、樹齢は100年以上のものだという。

「《聖猫櫃 - バンダジB》」深掘りポイント

猫のモデルはエジプトにいるリビアヤマネコ。三宅は神社を訪ねるのが好きで、神木も巡っている。猫を神のつかいのような存在にするために静かな表情を選び、尊厳を与えている。猫も下のバンダジも同じ1本のクスの木からつくっている。そのために、ぴったりとした一体感がある。三宅は大学で霊木顕現仏(れいぼくけんげんぶつ)といって、霊木に彫られた仏像の研究をしていた。この作品では、顕現する瞬間を表すためにノミの溝を残してあるという。バンダジの金具には、丸ノミで彫った跡が分かる。櫃の中はくり抜いてあるが、継ぎ目はまったく分からない。内在するものを彫り出そうとする三宅の技の跡でもある。

「《聖猫櫃 - バンダジB》」深掘りポイント

三宅 一樹Ikki Miyake

1973年東京都練馬区生まれ。1996年多摩美術大学美術学部彫刻科卒業。1998年多摩美術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。2009年多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、博士号取得。2009年多摩美術大学美術学部彫刻学科非常勤講師(〜2014年)。2014年アトリエ榧乃舎設立。木彫における過去と現在を見据え、未来まで継承される木彫作品の創造を目指している。「素脚詞」「YOGA」「神像彫刻」「聖猫」「聖櫃」のシリーズに加え、2024年には「耳」をテーマに木彫の先人たちが到達したことのない次元までモチーフを追求した意欲作を発表している。