Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「跡」

2025.1.10

「跡」

原田 武Takeshi Harada

素材・技法:彫金・鍛金/2024年
サイズ:H44.0×W30.0×D30.0cm

原田武が金属で表現する
日常の感動体験

原田武は、鍛金や彫金の技法で日常の感動体験を表現する金属造形作家だ。この作品では、鉄筋入りのコンクリート壁が割れたところに、アゲハチョウがとまった一瞬を造形している。現実とも夢とも思えるかたちだ。廃墟や朽ちた古民家が好きだという原田は、「廃墟に漂っている虚無感が好きなので、それをかたちにしたいと考えました」と語る。原田が最初につくった作品も虫だった。懐かしい風景を考えると虫に関する思い出が浮かぶ。蝶は再生のシンボルでもある。割れたコンクリートと蝶の鮮やかな対比が記憶に残る。「金属は自分の技術によって、形も印象も、あらゆる仕上がりに持っていけることが面白いですね」と語る。

「跡」深掘りポイント

原田がさまざまな手法で金属にテクスチャーを与えると、他の物質に見える。コンクリート塀の部分は銅板でできている。割れたでこぼこは、銅板を溶接で溶かした上から錫を溶かして塗り、高温で焼くことで表面が合金化して砂張(さはり)になる。アゲハチョウの羽は切ばめ象嵌(ぞうがん)になっていて、黒い部分は銀、黄色は真鍮を使っている。最初に銀を羽の形に切り、模様の部分をくり抜く。そこに模様のサイズに切った真鍮をはめていく。蝶には細い脚をつけて塀側に差し込んで止めている。しかもその脚の先は修理ができるように塀の内部で曲げて止めているという。原田の作品の中では、彫刻的な仕事と工芸的な仕事が同居している。

「跡」深掘りポイント

原田 武Takeshi Harada

1984年愛知県生まれ。2009年広島市立大学大学院芸術学部造形計画専攻金属造形分野修了。2005年第20回国民文化祭ふくい2005美術展佳作。2009年富士火災アートスペース2009受賞、第48回北陸中日美術展入選。2011年広島KAZARU展奨励賞・テーマ賞、 EAST-WEST Art Award Competition 2011 Encouragement Prize。2012年EAST-WEST Art Award Competition 2012入選。2013年第8回TAGBOAT AWARD入選、次世代工芸展入選(京都市立美術館 /京都)。2014年 Tokyo Midtown Award2014 グランプリ受賞。2016年 岡本太郎現代芸術賞入選。パーマネントコレクションに、2008年 「鳳凰」がある。