Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「聞こえた先#6」

2025.1.10

「聞こえた先#6」

橋本 直明Naoaki Hashimoto

素材・技法:パネル・綿布・アクリル絵具・マスキングテープ/2024年
サイズ:H27.3×W22.0cm

人と森の姿を重ねて、迷い込む感覚を
静かに描き出す橋本直明

橋本直明は、人と森を重ねていくことによって、人がどこかに迷い込む感覚を表現している。「この作品の風景は富士の樹海です。ネガティブなイメージのある場所ですが、行ってみると意外なほどに、強く生命を感じる場所でした。樹海を吹く風の音は、あるときは激しくあるときは静かに響く、まるで波の音のようでした」とゆっくりと思い出を語る。音が聞こえる先に向かうと、だんだんと樹海に迷い込んでいくことになる。その不思議な感覚を作品にしようと考えた。樹海の奥行きを、肖像画と風景画を重ねることによって実現しようとしているのがこの作品だ。平面に深さを感じさせ、肖像画と風景画の融合が図られている挑戦的な作画が生まれている。

「聞こえた先#6」深掘りポイント

橋本は、人物の写真を転写し、その上に風景の写真を転写する。さらに筆で風景を描く方法によって、重層的な画面にしている。背景は顔をマスキングして描く。クリスタルバーニッシュ(ニス)を多層に重ねている背景部分は、よく見ると画面から少し盛りあがっている。人物像と思って見ていると風景が見えてくる効果は、このように層になった絵柄によるものだ。側面には作業のときに使ったマスキングの痕跡を残している。地域アートをやっていた橋本は、作品を地域の人と考えながらつくるリレーショナルなアートの制作過程が面白かったという。そこから制作の過程を見せたいという考えに至った。

「聞こえた先#6」深掘りポイント

橋本 直明Naoaki Hashimoto

1982年三重県伊賀市生まれ。2009年東京造形大学大学院造形研究科修了。