Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「On the Moon_Earthrize」

2025.1.15

「On the Moon_Earthrize」

出口 雄樹Yuki Ideguchi

素材・技法:絹・胡粉・岩絵具・墨・膠/2023年
サイズ:H57.8×W85.0cm

月の模擬砂で月面を描く
出口雄樹の進化する日本画

出口雄樹が、荒涼とした月面を描くのに使っている画材は普通の岩絵具ではない。月の表土を人工的に再現したレゴリス・シュミラント(月の模擬砂)だ。日本画は岩絵具をにかわで画面に定着させる方法で描く。岩絵具は岩石を細かく砕いたものなので、月の石も画材になるというわけだ。月面には空気がない。遠景をぼかして遠近を表す日本画の空気遠近法が使えないため、隅々までピントが合っている月面を描くことになった。「日本画を見慣れた人には違和感があるかもしれません」と出口はいうが、月の景色がリアルに感じられる。月面には着陸船や月面走行車、そして出口の大切なアイコンであるドクロを描き込んでいる。

「On the Moon_Earthrize」深掘りポイント

この作品は絹本といって、絹地に描かれている。月面を表すのに使ったレゴリス・シュミラントという月の模擬砂には種類がある。月の高地と低地では表土の組成が違っているので砂の色も違う。岩絵具と違うのは粒子の大きさが一定ではないことで、使うときには工夫が必要だった。背景の宇宙空間に地球が浮かんでいるが、地球の部分は裏側から彩色する裏彩色という手法で描かれていて、やわらかい印象を与える。宇宙の中の地球を表現するのに、日本画の手法である裏彩色が適切だったというのも興味深い。

「On the Moon_Earthrize」深掘りポイント

出口 雄樹Yuki Ideguchi

1986年福岡県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、ニューヨークで制作を行い、国内外で多数の個展・グループ展に参加。大学在学中に最高賞を受賞。三菱商事アートゲートプログラム奨学生に選出され、海の日芸術祭で最高位賞を受賞。また、公益財団法人吉野石膏美術振興財団や国際交流基金から助成を受けている。2019年に帰国し、京都府を拠点に活動。同年、歌手の星野源のアルバムジャケットを手掛けた。名古屋、新宿、福岡、京都、仙台、千葉、渋谷と各地で個展を開催。現在は京都芸術大学美術工芸学科の専任講師を務めている。上賀茂神社、北原照久コレクション、明王物産コレクション、Leo Kuelbs Collectionに作品が収蔵されている。