Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。
2025.1.15
「月光」
堤 岳彦Takehiko Tsutsumi
素材・技法:スパッタリング/2024年
サイズ:H72.7×W116.7cm(50M)
スパッタリングだから可能になった
堤岳彦のクリアな色彩とかたち
堤岳彦の作品には、筆のタッチがない。スパッタリングといって、絵具をブラシで飛ばす方法で作品を描いているからだ。「果物や植物の色が変わる部分は、筆で描くとどうしても絵具が混ざって濁った色になってしまいます。スパッタリングなら、違う色の絵具を飛ばして重ねていくのでグラデーションがきれいに出る。色も濁りません」という。この色の表現方法は、カラー印刷が4色の網点で表されているのと同じように点の集合になっている。グラフィック・デザイナーとして印刷も熟知している堤が、試行錯誤の後に手に入れた方法だ。堤は、日本美術の中でも琳派や葛飾北斎のようにデザイン的に優れたものに惹かれるという。
中央の海に映る月光をスパッタリングで描いている堤岳彦。光が強く反射している部分から海に溶け込みそうなほど弱い部分までが、ごく自然なグラデーションで表現されている。「ここで使っているのはアクリル絵具にモデリングペーストを混ぜて、岩絵具のようなマットな質感にしたものです。水分が少ないので、網とブラシだと飛びにくい。洗濯に使う大きめのブラシと歯ブラシをこすり合わせています」。適度な大きさの絵具の粒子を均一に飛ばすために、いろいろなブラシを使ってみた。水平線は型紙を使ってシャープな線を出している。
堤 岳彦Takehiko Tsutsumi
[Sata Gallery]
1975年神奈川県生まれ。1999年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。2001年東京藝術大学大学院修士課程デザイン専攻修了。同年共同工房「アトリエ城山」設立(〜2004年)。2003年クリエイティブチーム「ebc」設立。現在は、横浜美術大学美術学部非常勤講師、日本グラフィックデザイン協会会員、日本美術家連盟会員