Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。
2025.1.15
「Sensible」
谷口 小夏Konatsu Taniguchi
素材・技法:Acrylic, gouache, canvas/2020年
サイズ:H72.7×W72.7cm
デジタルネイティブな谷口小夏の
アナログな手法がつくるバランス
谷口小夏の色使いは独特だ。それは製作の方法からくるもののようだ。谷口は、パソコン上でトライ&エラーを繰り返して色の組み合わせを決め、それをキャンバス上に手描きしている。デジタルデータをプリントするのではなく、アナログで再現している。そのため、実際に見ると絵具の質感があるが、パソコン画面上で見ても実物とあまり印象が変わらないということが起きる。谷口小夏はデジタルネイティブな世代でありながら、昔の絵画の遺伝子があるとアート業界での評価があるのも、このあたりに理由がある。
この作品では、オレンジ系の色の髪の毛と黒いタートルネック、パープル系のジャケットの組み合わせ。強烈な色は使われていない。明るい髪の毛の色も画面上では自然に見えている。谷口は構図が同じで、色の組み合わせを変えた作品を複数描くことがあるが、服の色が変わると人物の印象が変わっていくのがよく分かる。このスタイルは、谷口が版画製作を学んできた経歴を思い出させる。人物の表情はいつもクールで、太い線で表される、単純化された目の存在感が印象に残る。
谷口 小夏Konatsu Taniguchi
[Gallery Cellar]
1995年、大阪府生まれ。京都精華大学芸術学部版画コース卒業。ネット上における匿名性やトリミングされた情報が作品のテーマ。デジタル世代である谷口小夏は「SNSにアップされた画像は、匿名の場であるからこそ表現できる個人の本質を写したものではあるが、彼らが見せたくないと思ったものはそこには存在していない。すべてをあらわにしているような画像にも大きな秘匿性があり、ネット世界に存在するモノは常に匿名性を帯びている。画面越しの人物は永遠に受け手にとってどこかの誰かであり、同時にどこの誰でもなかったりする」と指摘している。