Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「BUSSIN'-2401」

2025.2.21

「BUSSIN'-2401」

井上 魁Kai Inoue

素材・技法:陶/2023年
サイズ:H16.0×W28.0×D9.0cm

踊る感覚を陶土に与えた
井上魁の言葉のフォルム。

「ストリートダンスの感覚を陶器に結びつける」という、不可能にも思える挑戦をしているのが井上魁の作品だ。子供の頃、最初に出会ったやきものは砥部焼。出身地の近くにやきものの産地があって、身近な存在だった。多摩美術大学時代はストリートダンスにはまっていたという。「BUSSIN’というのは英語のスラングで、おいしい、最高という意味です。手びねりで粘土を言葉の形にしていますが、形によっては焼成時に変形してしまうので、どのように置いて焼くかも相当考えています」と井上。作品には陶器とは思えないスピード感やグルーブ感が宿っている。井上にとっては、手びねりという作業自体がダンスの延長なのかもしれない。

「BUSSIN'-2401」深掘りポイント

この作品の彩色はマットな質感が特徴だ。彩色自体もスピード感あふれるタッチで行われている。自由な色使いと即興的な描線が、見え隠れする地の白い釉薬によって際立っている。BUSSIN’というアルファベットの文字は、大小がありながらひとかたまりになっているが、よく見ると文字の列の中央は接地していない。「この空間を保ったまま焼成するには工夫が必要」と井上は言う。このわずかな空間が浮遊感を生み出し、この作品がかたちのない言葉から発想されたものであることを再認識させてくれる。

「BUSSIN'-2401」深掘りポイント

井上 魁Kai Inoue

2000年愛媛県生まれ。2022年多摩美術大学美術学部工芸学科卒業、現在同大学大学院工芸専攻領域在籍。主な展覧会に、2021年「ALBUM」「工芸学科四年有志展十人十工」、2022年「多摩美術大学工芸学科卒業制作展」「Art in Tokyo YNK」など。