Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.2.21
「déjà-vu-旅人の詩(うた)- 2023#6」
前 友洋Tomohiro Mae
素材・技法:アクリル彩色/2023年
サイズ:H53.0×W45.5cm
前友洋が描く日常風景の中の卵が
忘れられないインパクトで迫る。
日常の風景に卵型のスペースを描き込むのが、前友洋のスタイルだ。「あるとき、人が歩いている風景を見ていたら、人が卵のように見えたんです」という自身の体験から、風景画に卵を描き入れている。卵は歩く人にも見え、風景を目隠ししているようにも思える。自分にとってこの卵型のスペースはなんなのかを考えさせられる作品だ。海外の展覧会でもいろいろな感想が出る。作品を見て「卵はいらないよ。風景だけでいいんじゃない」と言っていた人が、「やはり卵があったほうがいいね」と話すようになった。「その人には、『でしょ?』と答えておきました」という。卵のある風景はなんともシュールで、忘れられないインパクトがある。

実は、前が描く景色の中の卵の「姿」は次第に変化している。以前は影のある立体的な卵を描いていたが、現在は、卵のフォルムだけの平面的なスペースを描き込んでいる。以前の作品には風景と卵が描かれているように見えるが、現在は景色の一部が突然卵型に抜けている。この変化が意味的な変化を呼び、卵型に白く抜けた空間はさらに謎めいてきている。この作品の風景は前のアトリエの近くの道を描いたもの。ただし、植物が絡み合ってできたトンネルは伐採されてしまって、この作品の中にだけしか存在しない風景になった。

前 友洋Tomohiro Mae
[SMART SHIP GALLERY]
多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程修了。第103〜107回二科展入選、第108回二科展特選受賞。2022年ギャラリー国立で個展。2024年Galerie Bohner(ドイツ)、SMART SHIP GALLERYで個展。2025年はART INTERNATIONAL ZURICH(スイス)で個人ブース出品、フィールンハイム(ドイツ)の美術館で2カ月間の個展が予定されている。