Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.2.21
「OS2 Actuate Stag beetle Y_24」
堀 貴春Takaharu Hori
素材・技法:鋳込(白磁)/2024年/原型・型制作:2024年
サイズ:H9.0×W23.0×D30.0cm
この世には存在しない昆虫を
磁器として生み出す堀貴春の挑戦。
堀貴春は「鋳込」という、型に磁土を流し込んで成形する手法で作品を作っている。細かい脚の先や表面の表現など、鋳込製法だからこそ可能になることが多い。カブトムシなど外骨格の昆虫が蛹から成虫になるときには、一度体の組織がどろどろになるという。そのドラスティックな変化は鋳込の技法とそっくりだ。堀はこのことに作品を作った後で気がついたというが、手法とテーマがぴったりとはまっていて強い印象を与える。この作品は、超音波を発するクワガタを想像して作ったもの。還元焼成という、窯内の酸素を制限して焼く方法で行い、裏面まで丁寧な施釉が施され、昆虫の美しさを再現している。

昆虫が好きな堀は、「もしこんな能力のある昆虫がいたら」と想像して、それを実際に形に落とし込んでいる。この作品は「超音波を発するクワガタ」として、クワ部分は大きくふたつに分かれていて目を惹く。作品が現実にはない大きさであることも迫力を生んでいる。このクワガタは木にとまらない前提で、脚には細かいトゲがない。そのかわり、土砂が掘れるようにヘラのような部分を持った前脚になっている。地球の温暖化で木が少なくなり、木にとまらず、砂漠土漠に穴を掘って生き残っているクワガタの姿を想像したという。細部まで考え尽くされた作品には特別なリアリティーがある。

堀 貴春Takaharu Hori
[GYOKUEI]
1996年東京都生まれ。2001年から2014年まで千葉県に在住。2014年東京学館船橋高等学校美術工芸科卒業。2016年愛知県立瀬戸窯業高等学校専攻科修了。2019年金沢卯辰山工芸工房修了。2020年石川県金沢市にアトリエを設立。2022年第16回パラミタ陶芸大賞ノミネート。2025年は3月に香港、9月に中国で展覧会が予定されている。