Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.2.21
「月に行く(宇宙兄弟コラボ作品)」
裕人礫翔Hiroto Rakusho
素材・技法:金銀箔伝統技法/2021年
サイズ:H120.0×W120.0cm
裕人礫翔が描く宇宙空間には
色鮮やかな地球が浮かぶ。
日本の工芸に使われる箔を駆使して、月をテーマにした作品を発表する裕人礫翔。箔は金属を紙のように薄く延ばしたもので、箔をそのまま使うこともあるが、酸化させて古さを感じさせたり、酸化の度合いによって色を変えることもある。さらに裕人は、箔を粉にして絵具のように使い、琳派の技法「たらしこみ」による繊細な表現を可能にした。京都・西陣の織元に育ち、長年技を培ってきた箔伝統工芸士だからこそ生み出すことができたものだ。この作品は漫画家・小山宙哉の『宇宙兄弟』とのコラボレーション・シリーズのひとつ。月へ行くことを目標に成長する兄弟の物語が、裕人の技と融合してアートとして立ちあがっている。

真ん中にある宇宙船は小山宙哉の漫画から取られたモチーフで、古色仕上げの銀箔を使っている。銀は酸化すると黒くなる性質がある。それを利用して色をつけ、使い込んだ宇宙船の表面を表現している。一方、地球を描くのには、さまざまな色箔を使っている。色箔とは、銀箔に染料などで色をつけたもの。色箔はバリエーションが多く、輝きもあって、華やかな印象を与える。青いはずの地球が鮮やかな色で宇宙に浮かぶ見たことのない光景は、箔の可能性を追求する裕人ならではの表現になっている。

裕人礫翔Hiroto Rakusho
[Artglorieux GALLERY OF TOKYO]
1962年京都府京都市西陣生まれ。箔アーティスト・箔伝統工芸士。箔伝統工芸士の父から家業を受け継ぎ、40歳まで西陣織の箔伝統工芸士として活躍。箔の伝統技術を生かして、神社仏閣の屏風や襖絵などの箔部分の復元を担当する。40歳を機に、「自身が引き継いだ日本の伝統技術を、日本だけではなく世界に伝え残したい」という思いから、唯一無二の箔アーティストとして、ニューヨーク、パリ、ロンドン、クウェート、シンガポールなど、世界各地で作品を発表。国内でも注目されている。近年では企業やホテルのシンボルとして作品を発表し、映画・テレビ・雑誌などでも作品が取りあげられている。代表作品は「月光礼賛」「〇△□あるがままに」。