Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「Frosted Window#78」

2025.2.21

「Frosted Window#78」

角谷 紀章Kisho Kakutani

素材・技法:アクリル絵具・綿キャンバス/2024年
サイズ:H53.0×W65.2cm

凍った窓から見るぼやけた景色。
角谷紀章が描く画面が視線を惹きつける。

画面中央のぼやけている景色を、ついじっと見てしまう人は多いだろう。角谷紀章の作品の第一印象は、見えるはずのものがよく見えないというショックに近い感覚だ。凍りついた窓を通して外を見たときのように、ぼやけた景色によって画面に視線を釘付けにする。まずぼやけた部分を、絵具をにじませながら描いている。特定の場所を描くというより、見る人の記憶や思いがこの作品を見ることで想起されることがテーマだ。このシリーズを始めたのは、日本画を描いているとき、「自分にとってのリアリティーが人と共有できるのだろうか」と疑問に思ったから。ここにあるのはどこかで見たことがあると思わせる景色。誰もがリアリティーを共有できるはずだ。

「Frosted Window#78」深掘りポイント

角谷は日本画を学んできたが、ここでは画材にアクリル絵具を選んでいる。混色しやすく、伸びがいいので、ぼやけた画面を描くのに適しているからだ。ピントが合った景色部分との境目には、絵画という表現手段の面白さが感じられる。この「Frosted Window」シリーズでは、ぼやけた部分が窓のように矩形になっているが、このほかにも、「Curtain」「Fog」というシリーズがあり、それぞれが風景を半透明のカーテンで覆ったような画面、霧で隠されたような画面になっている。いずれも、「部分的に見えにくい」ということが脳内に何を起こしているのか、しばらく考えさせられる作品だ。

「Frosted Window#78」深掘りポイント

角谷 紀章Kisho Kakutani

1993年兵庫県生まれ。2017年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業、19年同大学大学院日本画研究領域修士課程修了、22年同大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻日本画修了博士号(美術)取得。現在は東京藝術大学美術学部絵画科日本画教育研究助手を務める。スマートフォンで撮影した景色を題材にして視覚的に不明瞭な部分を作り出し、その解釈を鑑賞者に委ねることで、鑑賞者各々の経験や記憶を呼び起こす。2020年第46回東京春季創画展春季展賞を受賞。2021年「A-TOM ART AWARD2021」入選、「FACE2021」入選。