Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「酔鯨」

2025.2.21

「酔鯨」

出口 雄樹Yuki Ideguchi

素材・技法:ミクストメディア/2025年
サイズ:H74.7×W91.0cm

出口雄樹が長年描き続ける、
鯨の形をした聖なる存在。

出口雄樹が鯨というモチーフに出会ったのは東京藝術大学4年生のときのこと。東京大学の遠藤秀紀教授主宰の比較解剖研究室に参加して、さまざまな動物の骨を見る機会があった。中でも鯨の頭骨から背骨のラインがたいへんきれいで印象に残ったという。自身が海の近くで生まれ育ち、海を象徴するものを描いていきたいと考えていたこともあって、大学時代から鯨を描き続けてきた。最初はリアルに描いていたというが、次第に神聖な存在として象徴的に描くようになった。「これは海を象徴する偉大な生きものとして描きました」という出口。ここには、体に葡萄唐草をまとい、青海波の海から踊りあがる「神」が出現している。

「酔鯨」深掘りポイント

ザトウクジラをモデルにしているというが、赤みのある目は人間のよう。白い体には正倉院裂にある葡萄唐草を元にした文様が描かれている。葡萄唐草はペルシャから日本に伝来したもので、繰り返す文様は永遠性につながって縁起がいいとされている。白い部分には胡粉を使っている。近年の絵具は化学的に合成されたものもあるため、微妙な色や存在感がテーマと合わないこともある。「ここには象徴的なものを描きたかったので、生物由来の顔料が合うと思って」と胡粉を選んだ。凪いだ海も象徴的なものとして、青海波文様で描かれている。周りのしぶきも琳派の波の文様のようだ。

「酔鯨」深掘りポイント

出口 雄樹Yuki Ideguchi

1986年福岡県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、ニューヨークで制作を行い、国内外で多数の個展・グループ展に参加。大学在学中に最高賞を受賞。三菱商事アートゲートプログラム奨学生に選出され、海の日芸術祭で最高位賞を受賞。また、公益財団法人吉野石膏美術振興財団や国際交流基金から助成を受けている。2019年に帰国し、京都府を拠点に活動。同年、歌手の星野源のアルバムジャケットを手掛けた。名古屋、新宿、福岡、京都、仙台、千葉、渋谷と各地で個展を開催。現在は京都芸術大学美術工芸学科の専任講師を務めている。上賀茂神社、北原照久コレクション、明王物産コレクション、Leo Kuelbs Collectionに作品が収蔵されている。