Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「あなたを見つめる時間」

2025.2.21

「あなたを見つめる時間」

志賀 龍太Ryota Shiga

素材・技法:Oil on canvas/2024年
サイズ:H27.3×W16.0cm

偶然の線が生み出す思いがけない形から
志賀龍太が描くやさしい空間。

この作品で描かれているキャラクターは、志賀龍太の妻がモデルになっている。志賀が夕食の準備をしているときに、妻が椅子に座ってそれを見ている姿だという。こちらをじっと凝視している様子は、料理のなりゆきを見守っているからだ。画面には人物と椅子しか描かれていないので、最小限の舞台装置で演じられる劇のように、人物にスポットライトが当たったような印象がある。志賀は何度もフリーな線を描いては消すことを繰り返し、その中で偶然に生まれる形を発見して、そこから作品を作っている。そのために、短時間で完成する作品もあれば、なかなか形が見出せない作品もあるという。シンプルな構図の作品でありながら重層的な存在感を発しているのは、志賀の創作の方法によるようだ。

「あなたを見つめる時間」深掘りポイント

志賀の作品では、人物の顔が最小限の要素で描かれていて、笑ったり泣いたりという分かりやすい表情は存在しない。そこには、見る人の気持ちを投影してほしいという志賀の思いが感じられる。立体感を廃した表現の中、椅子の下には色がうっすらと残っている。これは志賀が元あった形を消したものだというが、完成した作品では何かの影のように見える。こんなところからも、志賀の作画法である、線を描いては消しながら、偶然から生まれた線に意味を持たせていくプロセスを想像することができる。

「あなたを見つめる時間」深掘りポイント

志賀 龍太Ryota Shiga

1988年愛知県生まれ。岐阜県在住。2019年 NY sohoに1カ月滞在し、作品を制作し路上販売。2023 年「independent tokyo」で奥田雄太賞、天明屋尚賞受賞。2022年愛知、岐阜で個展。2023年愛知、埼玉、台湾、東京で個展。