Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「円相」

2025.2.26

「円相」

江藤 雄造Yuzo Eto

素材・技法:本漆・アクリル板・越前和紙/2024年
サイズ:H70.0×W100.0cm

金魚たちがくるりと円相を描く。
影も江藤雄造の漆作品の一部。

神社仏閣、仏像の修復や伝統工芸に携わりながら、漆を画材とした作品を制作している江藤雄造。「今までにない形の漆を知ってもらいたい」と言う思いで江藤が描くのは金魚の群れが構成する円相。円相とは禅の悟りの境地であり、縁起物でもある。同じく縁起物である金魚の影を生み出したくて透明なアクリル板に金魚を描くことに挑戦し、ツルツルしたアクリル板に本漆を塗るために「噛みつき」(密着性)をよくする技術を開発した。

「円相」深掘りポイント

影の存在とアクリル板表裏の両面に金魚を描くとによって、まるで水の中をのぞいたときのような深さを作品から感じる。その深さが漆の世界を立体的に広げている。金魚の影を受け止める背景にもこだわりを見せており、手漉きの越前和紙を用いることで漉き模様を水の動きに見立てている。画面中央には群れの先頭になっている金魚がいる。時計回りに円相を描く群れに加えてところどころに異なる動きのグループを配している。中でも左上に泳ぎさろうとする一群には速さを感じる。 江藤の作品は赤い金魚に混じって泳ぐ紅白金魚や出目金、琉金を探すのも楽しみ方のひとつ。

「円相」深掘りポイント

江藤 雄造Yuzo Eto

1982年、兵庫県生まれ。兵庫県龍野実業高校デザイン科を卒業し、漆芸家である父親の國雄氏に師事。その後香川漆芸研究所に入所しさらに漆芸を学ぶ。縄文の昔から使用されている着色・接着・補強材である漆を用い、その伝統技法を継承しながら、さまざまな素材を使用して新しい漆の可能性を引き出し、縁起物モチーフの平面作品を描く。その卓越した漆の技術を生かし、国指定重要文化財兵庫県「相楽園 船屋形」や世界遺産に指定された奈良県「春日大社」を始め各地の重要文化財の修復に携わるほか、金継ぎ技術の普及にも尽力している。日本工芸会研究会員・兵庫県工芸作家協会理事。