Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.5
「熱狂」
上林 泰平Taihei Kanbayashi
素材・技法:ミニチュア人形・アクリル・キャンバス/2025年
サイズ:H126.7×W101.0×D5.8cm
上林泰平が極小プラスチック人形で
表していく、人間の行動心理。
上林泰平にとって、建築模型などで人間の大きさを表すのに使われるミニチュア人形は「画材」だ。キャンバスに一体一体立てるのはたいへんな作業だが、「集合体の中で揺らぐ人間の行動心理」を表すにはぴったりの存在と考えている。赤の三角と白いラインで構成された画面には、ほんの少しの金色の人形とたくさんの赤い人形が立っている。「金色はスター、赤はスターに熱狂している人々です。中央から右には熱狂する群衆がいて、左では人が集まりつつあります。左上は冷め始めた人たち、右下には無関心または興味を持ち始めた人たちがいます」。スターを崇拝する群衆の姿によって、人の興味の移り変わりを俯瞰した気持ちになる作品だ。

実は赤い人形は1色ではなく、いろいろな赤を使っている。これまで上林は人形を同じ色で塗っていた。よく見ると、赤い部分の色は均一ではないとわかる。「きれいに仕上がっているので、見てほしい部分です」と上林は語る。遠くから見ると抽象的な作品だが、近くに寄れば寄るほどミニチュア人形のリアルな形が見えてきて、驚きを感じる。制作期間は1カ月半ほど。特にみっちりと人形を並べた赤い三角の部分には時間がかかった。丁寧に仕上げた下地にポツンと人形を置くときも、置く場所を失敗できない緊張感があったという。

上林 泰平Taihei Kanbayashi
[GALLERY ISHIKAWA]
1985年岐阜県飛騨高山市生まれ。2003年 岐阜県立斐太高等学校普通科卒業。2005年 から2013年まで穂高岳山荘に勤務。2014年第99回二科展に初入選し、以降毎年入選。2015年より飯田市に移住し、本格的に画家活動と登山活動を始める。2015年第11回世界絵画大賞展入選。2016年南信美術展 70周年記念賞。2019年南信美術展南信美術会賞。2019年第104回二科展 二科新人賞。2020年に地元のりんご農園の女性と結婚。画家であり農家である「農画家」として活動を始める。2021年革製品にレザーバーニング技法で絵付けをする「たいへいクラフト」を開業。