Newcomer

Newcomer Introduced by 山口祥平(大丸松坂屋百貨店 アートバイヤー)

アートに宿る深い魅力を伝えたい。
作品に込められたアーティストの魂を、
ART365が見いだします。

スペシャル対談 谷口 小夏 Konatsu TANIGUCHI

『主役になりすぎない存在感』

透明感のある色をバックに植物だけが描かれた画面から、ストイックなシンプルさが伝わる。谷口小夏の作品には「強烈に主張しない」という美学がある。匿名性をテーマにした人物像で知られた谷口が植物を描くと、違う世界が開けた。

谷口 小夏

谷口 小夏Konatsu TANIGUCHI

[Gallery Cellar]

熱帯 tropics(2024年)
熱帯(2024年)

「誰かわからない誰か」によって
表される現代のアイデンティティー

谷口小夏は大学卒業後すぐにアーティストとして活動し始め、現在7年目になる。これまでは自身の匿名性を重視してきた。それは、幼少期からインターネットに触れてきて、個人情報をメディアに出すことに抵抗があったから。今回インタビューに登場したのは、作品のモチーフが変わってきたことに関連するようだ。谷口の作品に登場する人物の匿名性は大きなテーマ。人物を描くときには男女の区別や表情を曖昧にしていて、フードをかぶった人物の顔が真っ黒に塗られていることもある。このスタイルについて、「画面の向こう側の人に寄り添いすぎないよう心がけています」と表現する。植物を描き始めた今も、モチーフのディテールを曖昧にする手法は続いている。

minor role(2021年)
minor role(2021年)

シンプルな太い線で表現される
植物が、生活の場に溶け込む

谷口にとって、人物から植物への切り替えは大きな挑戦だったが、周囲の反応はよかった。「植物は観察していますが、実物に寄りすぎた表現にならないようにしています」といい、植物の形には曖昧さを持たせて描いている。シンプルに表現するスタイルは植物シリーズでも共通していて、線が太い描画スタイルに合わせ、葉が大きい植物を選ぶことが多い。背景に落ち着いたグレーを選んだのは、作品が生活に溶け込むことを意識している。観葉植物が人の生活に自然にあるのと同様に、作品も主張しすぎず、生活に寄り添う存在として描かれている。花は「主役すぎる」と感じることがあり、部屋にさりげなく添える程度の存在感を意識している。

paradise(2024年)
paradise(2024年)
nestle(2025年)
nestle(2025年)

2025年9月

谷口 小夏Konatsu TANIGUCHI

1995年、大阪府生まれ。京都精華大学芸術学部版画コース卒業。ネット上における匿名性やトリミングされた情報が作品のテーマ。「すべてを露わにしているような画像にも大きな秘匿性があり、ネット世界に存在するモノは常に匿名性を帯びている。画面越しの人物は永遠に受け手にとってどこかの誰かであり、同時にどこの誰でもなかったりする」と認識している谷口は、ネットの世界とリアルな世界をなめらかに繋ぐ作品を描いて注目されている。近年、デジタル世代の感覚で描く人物像に加えて、植物をモチーフに制作するようになり、その活躍のフィールドを広げている。

Back number

SVGB(SIVELIA、GIRUVI、BURUMORI)
SVGB
裕人礫翔Hiroto RAKUSHO
裕人礫翔
苫米地 正樹Masaki TOMABECHI
苫米地 正樹
高村 総二郎Sojiro TAKAMURA
高村 総二郎
野原 邦彦Kunihiko NOHARA
野原 邦彦