Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.5
「FICTION #6」
大西 晃生Akio Onishi
素材・技法:Acrylic on canvas/2025年
サイズ:H53.0×W45.5cm
リアル・アンリアルを問いながら、
虚実の間を描く大西晃生。
大西晃生の人物像に実在のモデルはいない。絵画の元になっているのはAIによって生成された人物像であり、虚構である。しかし、この作品では、実際にいる人を描いたように見える。このリアリティーはどこからくるのか、大西はそれを問いかける。「特に苦心しているのは、AIによって生成する人物像の選定です。求めているのは自然な印象を持つイメージです。理想的な虚構にたどり着くことは容易ではありません」という大西。プロンプト(AIに送る要望)の微調整を繰り返していく。その後、デジタルイメージを紙に出力し、それを絵画にするという複雑な工程を経て、この作品を制作している。

「イメージが瞬時に消費される今日、自分たちがいかに視覚的な情報のみに依存しているかに、改めて目を向けてほしい」という大西。人物の上に紙のシワを描くスタイルが強く訴えかけてくる。これは、大西が素材にしようとした画面をプリントした紙を捨てようと、くしゃくしゃにした瞬間、「これは作品に使えるかもしれない」と思ったことから生まれた。自分の作品については、「見ることや認識することがいかに脆くて不安定な営みであるかを今一度問い直す契機となれば」と望んでいる。

大西 晃生Akio Onishi
[GALLERY KTO]
1996年岡山県生まれ。2019年京都精華大学デザイン学部卒業。日々の生活の中で感じる空虚さ、事物の無常さなどから、人間とはどのような存在であるかについて、絵画をはじめ、さまざまな形式を用いて表現している。制作においては、「壊す・作る」という行為を意識している。変化、変身、変容などをテーマに、生と死、人とモノ、自然と人工など相反するものを作品の中で混在させている。