Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「倭」

2025.8.5

「倭」

江藤 雄造Yuzo Eto

素材・技法:漆芸、本漆・アクリル板・越前和紙・パネル/2025年
サイズ:H70.0×W100.0×D5.0cm

現代の生活に合う漆作品を生み出すのは、
江藤雄造の確かな技と同時代感覚。

「漆の魅力を新しい方法で伝えたい」という江藤雄造は、長年にわたって神社仏閣の建物や仏像の修復に携わってきた漆芸家だ。「漆を現代の生活の中で楽しんでもらえるように、現代建築に合う軽やかさを表現しています」という江藤は、モチーフに金魚や縁起物を選ぶことが多い。それは見る人の心を癒やすものだと考えているからだ。この作品では、透明なアクリル板に色漆で赤と黒の金魚を描き、動きの楽しさや今までの漆にない軽やかさを表現している。漆は温度と湿度によって固まる時間が違うため、季節によって仕上がる時間も違ってくる。江藤は、通常の画材とは違った緊張感を持って制作している。

「倭」深掘りポイント

従来の漆工芸にはなかった軽やかさを、透明なアクリル板を使うことによって表現したところを見てほしいという江藤。重厚で格調を感じさせる真塗(黒漆で塗った無地のもの)の板ではなく、アクリル板を使うことによって、モチーフが固定された印象がなくなる。江藤は、アクリル板の両面に金魚を描いていて、それによって水の深さも感じさせている。一つ一つの金魚はシンプルな造形だが、集まって泳ぐ姿には動きがあり、静止した文様とは一線を画している。

「倭」深掘りポイント

江藤 雄造Yuzo Eto

1982年、兵庫県生まれ。兵庫県龍野実業高校デザイン科を卒業し、漆芸家である父親の國雄氏に師事。その後香川漆芸研究所に入所しさらに漆芸を学ぶ。縄文の昔から使用されている着色・接着・補強材である漆を用い、その伝統技法を継承しながら、さまざまな素材を使用して新しい漆の可能性を引き出し、縁起物モチーフの平面作品を描く。その卓越した漆の技術を生かし、国指定重要文化財兵庫県「相楽園 船屋形」や世界遺産に指定された奈良県「春日大社」をはじめ各地の重要文化財の修復に携わるほか、金継ぎ技術の普及にも尽力している。日本工芸会研究会員・兵庫県工芸作家協会理事。