Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.5
「天彩珠花樹図」
梅田 綾香Ayaka Umeda
素材・技法:絹・酸性染料・綿・反応性染料/2025年
サイズ:本紙H130.0×W53.0×D1.0cm、軸装込H164.0×W58.5×D1.0cm
染色による揺らぐような色彩で、
新しい感動を生み出す梅田綾香。
梅田綾香は染色技法によって、新しい絵画表現の可能性を追求している染色作家だ。特に蝋染めを得意とし、染料の動きによって現れる、予定調和でない像や色彩を作品に生かしている。染色ならではの揺らぐような表現によって、布の上に自然を内包する世界を出現させるのが梅田の特徴だ。今回の作品は樹をテーマにしたもの。「春の高揚感に満ちた、生命が漲る樹を描きました。染料を泳がせたときの面白さもあり、蝋の表現が生かされるので、樹は蝋染めの技法に合ったモチーフだと考えています」という。梅田は、「作品によって、見る方に新たな視点を提供したい」と願っている。

「樹の幹の、染料が混ざり合っている部分がいちばん表現したかった部分です」と梅田が語るように、大樹の色はランダムで、有機的に重なり合っている。モチーフは、イタリアに行ったとき、ある庭園で見た樹。小さなピンクの花が枯れたような樹皮に咲いていて、そのコントラストに目を奪われた。周りの白地の部分にも気を遣った。防染(染液が染み込むのを防ぐこと)をせずに作業を進め、空気感を最後に調整できるようにしたからだ。作業はたいへんだが、仕上がりの一体感は狙いどおりになった。「表装も自分で染めた布を使っているので、見ていただけたらと思います」という。

梅田 綾香Ayaka Umeda
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1993年広島県生まれ。2016年広島市立大学芸術学部デザイン工芸科染織専攻卒業。2017年三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生。2018年広島市立大学博士前期課程芸術学研究科造形計画研究専攻染織研究室修了。個展として、2016年「染色水族館」、2018年「千秋の樹々」、2022年「多元的ビオトープ」、2023年「花隠れ」、2024年「空洞と輝き」を開催。2022年「KOGEI Art Fair Kanazawa」、2023〜25年「Affordable Art Fair Hong Kong」、2023、24年「ART TAIPEI」などのアートフェアにも出展。