Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.20
「distant peaks」
甲村 有未菜Yumina Koumura
素材・技法:和紙・岩絵具・箔・水性顔料/2024年
サイズ:H45.5×W38.0cm
風景から抽出したかたちを丁寧に描く、
甲村有未菜の日本画の斬新さが光る。
2023年アートフェア東京で、初出展にも関わらず、ほとんどの作品が成約という快挙を成し遂げた甲村有未菜。なかば抽象化させた風景を、色味を抑えて描いているのが甲村の特徴だ。岩絵具などの顔料を塗っては削るという作業を繰り返して作品を作っていくという。岩絵具の質感を生かしたミニマルな画面は、日本画に同時代性を求める人にとって、ひとつの「解」になっているようだ。「風景から抽出したかたちと余白を生かして制作しています」と語る甲村の作品は、日本画の現代性とこれからにつながる可能性を感じさせてくれる。

甲村は、描いている風景から具体的な要素を引いていくことで、画面の質感を際立たせている。よく見ると、表面はザラザラだったりスムースだったりと、場所によって違った風合いになっている。「顔料を重ねてまた削るという行為を通して、そこに存在している実感や空気感を感じていただきたいと思っています」という甲村。重ねられた岩絵具の質感は、積み重ねた時間も表している。そのことに気づくと、画面からさまざまなことを受け取れるようになる。作品につい見入ってしまうのも、表面の複雑さと無関係ではない。

甲村 有未菜Yumina Koumura
[ギャラリーMOS]
1992年、愛知県生まれ。2017年、愛知県立芸術大学日本画専攻卒業。彼女の作品は優しい色と岩絵の具の質感、直線的な線による風景が特徴。多くを描かないことで、その場の空気感がより伝わる。あるときは時間の流れを感じ、それは過去への想起と未来を想像させる映画のような作品。性別に関わらず、多くの世代に支持を得る。作家自身は好奇心旺盛な笑顔あふれる若手でありながら、どこか達観したところもあり、作品と通ずる一面を感じさせる。近年各地のアートフェアでさらに好評を得て、完売作家の仲間入りを果たす。