Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「カプチーノ MB Middle」

2025.8.20

「カプチーノ MB Middle」

野原 邦彦Kunihiko Nohara

素材・技法:FRP/2025年
サイズ:H110.2×W92.0×D90.0cm

野原邦彦がかたちにする「一瞬」が
日常の幸せを実感させてくれる。

野原邦彦は木彫から出発し、ブロンズや平面作品、版画といった表現領域へと活動を広げてきた。伝統工芸とのコラボレーションや、バルーン型の巨大な立体作品など、従来の木彫作家とは一線を画す多様なアプローチが注目を集めている。
本作は、カプチーノを飲んだときの肩の力がふっと抜けるような安らぎの瞬間をかたちにしたものである。飲み物を口にしてほっと一息つくという、日々の中では見過ごされがちな些細な時間こそが、心のゆとりや豊かさを思い出させてくれる。そうした時間と向き合うことの大切さを見つめ直すきっかけを、作品は静かに提示している。

「カプチーノ MB Middle」深掘りポイント

野原邦彦の代表作のひとつである《カプチーノ》は、サイズ違いで4種が展開されており、肩の力が抜けるような安らぎの時間をテーマに、多くの共感を集めてきた作品である。この作品が評価される中で、ザ・リッツ・カールトン東京とのコラボレーションが実現し、ホテルで実際に使用されているティーカップのかたちを忠実に再現した特別仕様が制作された。
香り、湯気、泡に包まれて浮かぶスイマーは、変化し続ける忙しない日常からふと解き放たれた瞬間をかたちにしている。見る者が心のどこかで求めている安らぎや余白の感覚を媒介する存在として、微笑みながらそっと浮かんでいる。その表情には、湯気や香りのように一時的に消え去るものというよりも、むしろ移ろいゆく時間の中で静かに守られている、ささやかで確かな「余裕」のようなものがにじみ出ている。
素材にはFRP(繊維強化樹脂)を使用しており、これは木彫では再現の難しい、なめらかさと浮遊感を追求するうえで最適な選択だったという。木から出発した野原が、表現の幅を広げていく中で選んだこの素材は、彼の造形的な挑戦と柔軟な発想を象徴するものでもある。

「カプチーノ MB Middle」深掘りポイント

野原 邦彦Kunihiko Nohara

1982年北海道出身。2007年広島市立大学大学院芸術学研究科彫刻専攻修了。2017年上野の森美術館にて個展、2018年銀座蔦谷書店 Art Atrium(Ginzasix)にて個展、2021年世界遺産二条城にて個展、2021年大丸松坂屋主催「Think Green feat.野原邦彦」を8会場巡回。2022年・2023年アートフェア東京において7mのバルーンを展示、アートフェア東京のシンボル的存在となる。2023年ザ・リッツ・カールトン東京にてオリジナルアフタヌーンティーおよび個展を開催。2024年イベリコ豚インタープロフェッショナル協会アンバサダーに就任。さらなる活躍が期待される。