Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.20
「cool it (xs) aloha_hibiscus」
内田 有Yu Uchida
素材・技法:ガラス鋳造法・アクリル彩色/2025年
サイズ:H22.8×W16.8×D7.4cm
可愛いけれどふと考えさせられる、
内田有のポップな問題提起。
内田有の「cool it」シリーズは、ポップな造形の中に現代の矛盾や違和感を表現しようとするもの。「cool it」には、「冷やせ」という以外にも、「頭を冷やせ」「もうたくさんだ」といった意味がある。この作品ではホッキョクグマをアイスキャンディーに見立てて、温暖化で絶滅の危機に瀕する動物たちの実情を考えさせている。一見カラフルで可愛い作品だが、よく見るとシロクマの片方の足は暑い日のアイスキャンディーのように溶け始めている。全体の印象はポップでハッピーでありながら、現実をふと考えさせられる。内田が表現したい社会的なテーマが、じわりと伝わってくる作品だ。

内田はこの作品を、ガラスを素材とした鋳造技法で制作している。「型作り、鋳込み、焼成、冷却、仕上げと複雑な工程を経ています。温度管理や作業のタイミングによって作品の印象が大きく変わってしまうので集中力と綿密な段取りが必要です」という。中でもガラスの質感と彩色の載り具合を両立させることが難しいという。シロクマが着ている鮮やかなアロハシャツの色も、この細かな技術の積み重ねで出すことができている。暑さで溶け始めているシロクマの足の滑らかさも、ガラス素材の特性を生かしたもの。ガラスの面白さを実感できる作品でもある。

内田 有Yu Uchida
[SMART SHIP GALLERY]
1979年、東京都生まれ。2011年、東京藝術大学院美術研究科工芸専攻ガラス造形研究室卒業。このシリーズでは、ホッキョクグマを溶けかかったアイスキャンディーのキャラクターにし、印象的でカラフルな色を用いている。それにより市場に蔓延する可愛い商品デザインのイメージ=大量消費社会と、温暖化の影響で失われ行く生物の関係をアイロニックに表現。同時に、そのような事実を知りつつも、貪欲に消費を続ける私たちの傲岸さ、無神経さ、そして何を犠牲にしても、決して楽しむことを止めない“業”こそが社会を回転させ続けている実情を描いている。