Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「Nonverbal dyeing」

2025.8.26

「Nonverbal dyeing」

石井 佑宇馬Yuma Ishii

素材・技法:友禅技法による染色、シルクサテン・酸性染料/2023年
サイズ:H91.0×W60.0×D2.0cm

友禅染の手法に即興性を取り入れて、
感覚そのものを表現する石井佑宇馬。

石井佑宇馬は、伝統的な手描き友禅の手法で作品を制作している。しかし、作品の印象はとても現代的だ。友禅染めとは江戸時代に生まれた染色方法で、糊によってある部分を防染(染まるのを防ぐこと)して混色を避けながら多くの色を使って染めることができる。石井のやり方が伝統的な友禅染めと違っているのは、図案や下描きを使わず、即興的に布に糊を置き、染色するところだ。「布に染料が染みていく現象に、有機的な美しさを見出しています」という石井は、制御しきれない「染み」に自分の心の揺らぎを重ね合わせている。防染というコントロールできることと、染みというコントロールしきれないこと。両方の効果に着目して、自分の感覚を表現する挑戦を続けている。

「Nonverbal dyeing」深掘りポイント

「手描き友禅という伝統的な染色技法を使っていることに注目していただきたいです」という石井。平面作品に対して、日本の伝統工芸の手法で取り組んでいるところが興味深い。他の画材を使った作品とは違う「染色の美しさ」や「有機的な現象の質感」を見てほしいという。石井はまずフリーハンドで防染糊を布に置いていき、その後に細い面相筆を使って点描のように染料を染み込ませている。染料には予期しない動きがあり、そこに表情が出る。作品にはコントロールできないからこそのおもしろさが満ちている。

「Nonverbal dyeing」深掘りポイント

石井 佑宇馬Yuma Ishii

2001年福島県いわき市生まれ。現在、金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科工芸専攻在籍。受賞歴・支援歴に、2021年リサイクルアート展優秀賞、2023年A-TOM ART AWARD 2023 ​入選、金沢市工芸展入選、いい芽ふくら芽 in TOKYO Artglorieux賞、2024年クマ財団第8期生に選出、2025年SHIBUYA ART AWARDS小松隆宏賞、クマ財団第9期生に選出、CITIZEN Z世代KOGEI ARTIST応援プロジェクト、第6回金沢・世界工芸トリエンナーレ/ EGK工芸アワード2025 金沢エナジー賞​。