Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.26
「Deconstruction」
スズキシノブShinobu Suzuki
素材・技法:Dyed and acrylic cattle leather on canvas/2025年
サイズ:H53.0×W53.0×D3.0cm
スズキシノブ が皮革を使って
問い直す、固定された身体観。
スズキシノブは皮革を使って制作している作家だ。あるとき、皮革が単なる素材ではなく、私たちの身体と地続きの「もうひとつの外皮」として存在しているのではないかと感じたことが、この作品の制作の原点にある。今回の作品は、つなぎ合わせた皮革と人を描いた線を重ねている。皮革は身体の痕跡を象徴したもので、描線は人間の身体と外界の境界線を表しているという。この構造によって、「固定された身体観を問い直し、身体という存在の価値や解釈の可能性を広げることを試みました」とスズキは解説している。皮革という素材から身体への問い直しを試みる、スズキの意欲的な新作だ。

皮革は、カラダの内と外の境界線にある。そして皮は人間にもあり、これを「外皮」とスズキは呼ぶ。「外皮」の内側では細胞が生死を繰り返し、絶えず命が入れ替わる。心もそう。昨日とまったく同じ自分はいない。そして外側の世界も、一刻一刻移ろっていく。「外皮」とは、その狭間で、あっち側とこっち側を有機的につなぐ役目を果たす唯一無二のマテリアルなのだ。「皮革にレザーカービング、染色、ペイントなどを施し、革が訴える力を最大限に。裂け目の金色は、破壊の先の再生や希望を象徴しています」とスズキ。皮革ではなく、「外皮」であり境界線、そう考えると目には見えない何かが見えてくる。

スズキシノブShinobu Suzuki
[TOMOHIKO YOSHINO GALLERY]
1983年、東京生まれ。2013年にレザーカービングを始める。そのキャリアを活かして、革への装飾技法であるレザーカービング(革への彫刻)で2020年よりアート作品を発表。道端に存在する自然に生えた蔦や草、人が生み出したグラフィティなどのストリートアートに共通点を感じ、その感覚をフォローした唐草や夢中になっている生き物達をモチーフに、精神的な平和や自由を考える。またそれ自体何かの恩恵をいただいて成り立っている(FREEDOM IS NOT FREE)という繋がりに、自身のルーツである革を「使い捨てにならない作品」として結び感謝を表現している。