Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「いる場所は違うけれど」

2025.1.15

「いる場所は違うけれど」

上林 泰平Taihei Kanbayashi

素材・技法:ミニチュア人形・アクリル・キャンバス/2024年
サイズ:H43.3×W63.0cm

画面に立つ小さな人形たちによって
上林泰平が導く、見る人の目線

建築模型などに使われるミニチュア人形を、一体ずつ画面に立たせて作品にしたのは上林泰平だ。「おもちゃでアートをつくりたい」と考え、高さ2cmほどのミニチュア人形に行き着いた。元は真っ白の人形をさまざまな色に塗っている。「人形は、アクリル絵具の下地に使われるメディウムを使って立たせています。黒い人とカラフルな人がいるんですが、違う人生を歩む同士でも同じ地平上で生きているという設定です。片方は自由、片方は安定を目指している」と語る上林。小さな人形たちをじっと見ていると、自分の視点が上昇していくような感覚がある。それは、山小屋で8年勤務した経験があり、山を愛する上林ならではの、俯瞰した視点の再現にも感じられる。

「いる場所は違うけれど」深掘りポイント

左下にいるのは、色とりどりの人々。上林がイメージするのは「自由に生きる人」だ。カラフルでハッピーな群れになっている。この一群からは影が伸びていて、影はエアブラシなどではなく本物の影である。一方、画面の上の三分の一くらいは黒く塗られていて、よく見ると境界線に黒い人々が並んで立っている。地の黒色と一体化しているので目立たないが、徐々にその存在がわかってくる。こちらの人々にも影がある。見ていると、ふたつのグループを目線が行き来し始める。

「いる場所は違うけれど」深掘りポイント

上林 泰平Taihei Kanbayashi

1985年岐阜県飛騨高山市生まれ。2003年 岐阜県立斐太高等学校普通科卒業。2005年 から2013年まで穂高岳山荘に勤務。2014年第99回二科展に初入選し、以降毎年入選。2015年より飯田市に移住し、本格的に画家活動と登山活動を始める。2015年第11回世界絵画大賞展入選。2016年南信美術展 70周年記念賞。2019年南信美術展南信美術会賞。2019年第104回二科展 二科新人賞。2020年に地元のりんご農園の女性と結婚。画家であり農家である「農画家」として活動を始める。2021年革製品にレザーバーニング技法で絵付けをする「たいへいクラフト」を開業。