Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.8.26
「Dorohalf12」
稲葉 朗Akira Inaba
素材・技法:木彫、くすのき・レジン/2024年
サイズ:H58.0×W18.0×D14.0cm
半分だけが人間の形をした彫刻は、
心の複雑さを映し出す稲葉朗の造形。
人間の半分が、不定形の泥のようなもので覆われている木彫。それが稲葉朗の作品だ。下へ下へと流れていきそうな泥の部分とは対照的に、人の部分の表現は繊細で表情豊か。「感情や思いは顔と仕草にあります」と稲葉が語るように、人物は生き生きとしながらもリアルな存在を写したものではない。ひとつの理想像であり、見えている表情と見えない気持ちを、ひとつの彫刻として表現できないかと考えて生まれた造形だという。稲葉はこの造形によって、人の心の複雑さを表そうとしている。

人間ではない形になっている部分について、「実際には見えない形や続いていく部分を想像したり、理想と自我に揺れる人間のありかたを感じたりするきっかけになれば」という稲葉。制作中は、質感に関わる表面処理や、眼を作るときの処理などに特に気をつかっている。「内面を表現した部分では、不安定でありながら力強い部分もあったり、固まっているようで変化があるような、矛盾しているものをイメージしています」と語る。この作品を見ていると、人の部分と泥の部分を目線が何回も行き来する。それは木彫の新しい鑑賞体験に他ならない。

稲葉 朗Akira Inaba
[MEDEL GALLERY SHU]
1980年東京都生まれ。2003年東京造形大学彫刻専攻卒業。2007年同大学大学院彫刻専攻修了。2007年から彫刻家として国内外で活動。2007年茨城県芸術祭特賞、ZOKEI展ZOKEI賞。2008年茨城県芸術祭特賞、水戸市芸術祭市長賞、2010年水戸市芸術祭市長賞。2013年茨城県芸術祭会友賞。2014年彫刻の森美術館奨励賞 (二科展。 2017年見参展2017IIDギャラリー賞、二科展二科賞、IAG Awords2017アトリエムラギャラリー賞。2021年二科展会友賞。