Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.9.11
「Still Alive」
出口 雄樹Yuki Ideguchi
素材・技法:ミクストメディア/2024年
サイズ:H57.5×W84.3cm
日本画と現代性が融合する、
出口 雄樹の代表シリーズ『Still Alive』。
出口 雄樹が出品するのは、日本画の伝統技法である絹の布地に描かれた静物画。柔らかい色彩で描いた静物のなかにコミカルなドクロがある。「英語で静物画のことを『Still Life』といいます。その韻を踏んで『Still Alive(まだ生きている)』と題したのが本作です」と出口。ドクロはヴァニタス画の系譜で『死』を暗示させるものだが、ここでは現代的にコミカライズされている。「17世紀頃からオランダで盛んになった静物画には、『世の虚しさ』や『五感』などの寓意が秘められているものも多く、ヴァニタス画へと発展します。ヴァニタス画では「死」を思いおこす教訓的なモチーフが好んで描かれました」と語る。出口は日本画の技法で、静物画の今を描き出している。

「Still Alive」は出口の代表的なシリーズ。これまではキャンバスに描いていたが、今回は絹に描いた。日本画らしさと現代性の融合をどう行うかに腐心したという。「静物画は近代の日本画家にも多く描かれていて、私が卒業した東京藝術大学の日本画科では、いまだに試験科目として使用されています。私は、その歴史的な文脈を現代的に引き継ぐために本作を描いています。紙ではなく絹に描かれた作品ならではの透明感と色彩の冴え、そしてそこに描かれるコミカルなドクロの違和感を楽しんでいただければ幸いです」と出口は話す。

出口 雄樹Yuki Ideguchi
[Shibayama Art Gallery]
1986年福岡県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、ニューヨークで制作を行い、国内外で多数の個展・グループ展に参加。大学在学中に最高賞を受賞。三菱商事アートゲートプログラム奨学生に選出され、海の日芸術祭で最高位賞を受賞。また、公益財団法人吉野石膏美術振興財団や国際交流基金から助成を受けている。2019年に帰国し、京都府を拠点に活動。同年、歌手の星野源のアルバムジャケットを手掛けた。名古屋、新宿、福岡、京都、仙台、千葉、渋谷と各地で個展を開催。現在は京都芸術大学美術工芸学科の専任講師を務めている。上賀茂神社、北原照久コレクション、明王物産コレクション、Leo Kuelbs Collectionに作品が収蔵されている。