Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

「petrichor」

2025.9.11

「petrichor」

小野川 直樹Naoki Onogawa

素材・技法:ミクストメディア/2022年
サイズ:H57.0×W40.0×D36.0cm

極小の折り鶴が無数に舞い、祈りと
尊さを感じさせる小野川 直樹の立体。

指先ほどの小さな折り鶴を使って、立体作品を作る小野川 直樹。初めて折った記憶は5歳だという。小野川は2011年の東北大震災の後、陸前高田市を訪れて現地の人の話を聞き、震災の後を見て回った。自然の脅威を眼の前にして、今を生きていることを強く意識させられたという。そのとき、折り鶴が持つ祈りの念に惹かれた小野川は、折り鶴に尊さや神秘的なものを感じ、それが小野川にとっての美だと思い至った。「折り鶴には、この世ではない場所と行き来することを祈る、孤独な儀式のような感覚を得ることがあります。自然の脅威や恩恵に折り鶴を重ね、作品に落とし込むことで、折り鶴の『居場所』を創り上げています」と語る。

「petrichor」深掘りポイント

タイトルの「ペトリコール」とは、雨が降った後の地面から立ち上る匂いを指す言葉。植物の油分や土中のバクテリアが生成する有機化合物の匂いだという。この作品では、極小の折り鶴が揺らめきながら上昇していく。この鶴の群れの動きが、目には見えない匂いの動きのようにも感じられる。「ひとりひとりが自分なりの折り鶴や祈りのかたちを持っているかと思います。どのように感じ、どのように思いを重ねるかは人それぞれですが、作品との対話を通し、心を揺さぶるなにかが生まれることを願っています」。

「petrichor」深掘りポイント

小野川 直樹Naoki Onogawa

1991年東京都生まれ。2012年御茶ノ水美術専門学校卒業。’19年小豆島に小野川直樹美術館がオープン。主な個展に、’21年「祈り」(銀座一穂堂)、「folklore」(岡山県瀬戸内市立美術館)、’22年「四季彩」(岡山天満屋、福山天満屋)、’23年「小野川直樹展」(新風館、松栄堂薫習館)など。