Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.9.24
「cool it (xs) chocolate」
内田 有Yu Uchida
素材・技法:ガラス鋳造法・アクリル彩色/2025年
サイズ:H22.8×W16.8×D7.4㎝
溶け始めたホッキョクグマの脚に、
内田有の危機感がこめられている。
ホッキョクグマをアイスキャンディーに見立てたこの作品は、内田有の哲学をよく表現している。「cool it」と名付けられたこのシリーズは一見ポップでかわいらしいのだが、実は温暖化で北極の生物の生活をおびやかされていることを指摘している。よく見るとホッキョクグマの脚が溶けているのだ。この滑らかに溶けた脚を表現するために、内田はガラスを型に鋳込む「ガラス鋳造」という方法で制作しているが、ガラスの質感を思いどおりに仕上げるために綿密な温度管理をしているという。「ふとした違和感が小さな問いを生み、鑑賞者の記憶や感覚と静かにつながるような構成を目指しています」という内田の意図が伝わってくる。

「ガラス鋳造は型作りから鋳込み、焼成、冷却、仕上げまでいくつもの工程を重ねていきます。温度管理やタイミングを誤ると作品の印象が大きく変わってしまうため、集中力と綿密な段取りが求められます」と内田は語る。繊細な部分まで表現する型をつくるのも重要な工程だが、ゆっくりと冷やしていく冷却の工程も気を抜けない。チョコレートそっくりなリアルな色も魅力のひとつ。「ガラスの質感と彩色ののり具合を両立させるには細やかな調整が必要で、その加減には毎回神経を使っています」という。彩色にはアクリル絵具を使っている。

内田 有Yu Uchida
[SMART SHIP GALLERY]
1979年、東京都生まれ。2011年、東京藝術大学院美術研究科工芸専攻ガラス造形研究室卒業。このシリーズでは、ホッキョクグマを溶けかかったアイスキャンディーのキャラクターにし、印象的でカラフルな色を用いている。それにより市場に蔓延する可愛い商品デザインのイメージ=大量消費社会と、温暖化の影響で失われ行く生物の関係をアイロニックに表現。同時に、そのような事実を知りつつも、貪欲に消費を続ける私たちの傲岸さ、無神経さ、そして何を犠牲にしても、決して楽しむことを止めない“業”こそが社会を回転させ続けている実情を描いている。