Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。
2024.9.27
「April/23/blue.3」
潮田 友子Tomoko Ushioda
素材・技法:アクリル絵具・綿布・パネル/2023年
サイズ:H70.0×W70.0cm
潮田友子が金属製のヘラで描く模様は、
体とのつながりから生まれる
潮田友子の作品には筆がまったく使われていない。アクリル絵具を塗るのは金属製のヘラだ。ヘラを両手で持って画面に絵具を「引く」ことで描いている。このヘラは、潮田がドイツに留学していた1970年代後半に出会ったもの。堅固なものを描きたいと考えていた潮田にとってこの出会いは大きかった。「ヘラによって解放され、同時に縛られている」という言葉には、道具への強い信頼が込められている。制作は綿密だ。木の上に綿布を貼り、アクリルと細かいボローニャの石膏で下地を作る。通常5、6色を重ねているので、ヘラで上の層の色を塗ると、押し付ける力によって下の層の色が出てくる。予期しない、自然なかたちの模様が美しい。
アクリル絵具をヘラで塗っていくと、絵具が脇に押し出されて筋状に残る。画面上の縦横の細い筋はそうやってできたものだ。一方、下に塗られた絵具はヘラの圧力でかき取られる場所もあり、そこには下の色が現れてくる。潮田が「ヘラを引いていくときの息のつき方で模様が変わります」というように、この方法では作家の体と画面との近さがある。このヘラはドイツでは、「日本のヘラ」と呼ばれているそうで、部屋の壁にペンキを塗るためのものだという。
潮田 友子Tomoko Ushioda
[GALLERY KTO]
1947年宇都宮市生まれ。東京在住。1972年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。1976年〜84年西ドイツミュンヘンに滞在、ミュンヘン美術アカデミー絵画科卒業、マイスターシューラー取得。近年の個展は、2021年「積層 2014−2021」、「in her hands」、2022年「ゴヤの犬2022」。2023年「In her hands−方舟はのぼる−」。グループ展は、 2019年東京インディペンデント2019、 BOX ARTの新展開、 「形のないかたち」、<拡張するメールアート>展 、2023年 「art KYOTO 2023」、 2024年「七十二展」東京芸術大学油画科72年卒有志展など。