Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.9.30
「熱帯」
谷口 小夏Konatsu Taniguchi
素材・技法:アクリル・キャンバス/2024年
サイズ:H 80.3×W116.7cm
太い描線でキャラクター化された
谷口小夏の植物たち。
人物を描いてきた谷口小夏が、植物のシリーズを始めた。特徴的な太い描線はそのままに、観葉植物を描いている。匿名性をテーマにしていた人物画と同様、植物もディテールを曖昧にすることで、リアルさや煩雑さから離れていっている。人物を描くときと共通しているのは、主役になりすぎない、さりげない存在感だ。植物を観察していながらも、実物に寄せた表現にならないようにしているという。「花は主役すぎると感じることがあります」といい、存在感のありすぎるものを排除している。画面にはストイックなまでのシンプルさが生まれている。

谷口小夏の作品では、くっきりとした黒くて太い線が、描かれる対象を記号に近い存在に変化させる。植物はキャラクター化して、陰影を排除した背景の中に置かれている。そのことが、谷口の作品が今の空間にしっくりとなじむ理由のひとつのようだ。この強い描線を生かすために、葉が大きい植物や多肉植物が選ばれている。これらの植物は細かい部分が少ないために、描線も複雑化しない。存在感のある線とフラットな背景は、谷口の世界を代表する要素になっている。

谷口 小夏Konatsu Taniguchi
[Gallery Celler]
1995年、大阪府生まれ。京都精華大学芸術学部版画コース卒業。ネット上における匿名性やトリミングされた情報が作品のテーマ。「すべてを露わにしているような画像にも大きな秘匿性があり、ネット世界に存在するモノは常に匿名性を帯びている。画面越しの人物は永遠に受け手にとってどこかの誰かであり、同時にどこの誰でもなかったりする」と認識している谷口は、ネットの世界とリアルな世界をなめらかに繋ぐ作品を描いて注目されている。近年、デジタル世代の感覚で描く人物像に加えて、植物をモチーフに制作するようになり、その活躍のフィールドを広げている。