Focus 作品に込められた「想い」それぞれの物語
作品を深く理解して、もっと好きになる。
制作の背景まで踏み込んで、
アーティストの想いを紐解きます。

2025.9.30
「ℏ- unobserved」
淵上 直斗Naoto Fuchigami
素材・技法:Silicon wafer・epoxy resin・wooden panel/2023年
サイズ:H60.6×W91.0cm
淵上直斗が物理学から得た世界観が
半導体を使った画面に広がる。
淵上直斗が使うのは、ICチップとなるシリコンウエハー(半導体)を粉砕したもの。淵上が自分にしか表現できないことを追求して生まれた画材だ。「情報社会を支える半導体は、私たちの直観とは乖離した、原子や電子などの微小な世界の性質を応用したものです。ミクロな原理がマクロな社会の根幹を支えているわけです。半導体によって、現実世界を構成するものの不可解さや、人間が理解できることはほんのわずかであることを表現しようとしています」と淵上は語る。タイトルは著名な物理学実験の引用。虹色に変化する半導体と黒地で宇宙的世界観を演出し、上に流した樹脂に鑑賞者が映り込むことで、半導体に囲まれる人類を映し出そうとしている。

本制作に取り掛かるまでの計画と実験に最も苦心するという淵上。表面に流す樹脂の扱いに労力をかけている。作品鑑賞のノイズにならないように気泡や埃を除き、表面を平滑にすることにこだわって制作していく。半導体には表裏があるので、破片をピンセットで表にしていく作業にも時間がかかる。「半導体は角度や距離によって虹色に輝いて見えるので、さまざまな角度や距離から見て楽しんでいただけると思います。近くで見ると破片の一つ一つに回路が描き込まれているので、そこも見どころです。半導体という素材自体が、社会や時代の違いによってさまざまな意味を持つものなので、作品を見て思考を巡らせてもらえれば」と願っている。

淵上 直斗Naoto Fuchigami
[TOMOHIKO YOSHINO GALLERY]
1995年兵庫県神戸市生まれ。理工学部物理学科を卒業後、2021年から制作活動を開始。’22年「100人10 2022」入選、「いい芽ふくら芽 in Tokyo 2022」入選、「TOMOHIKO YOSHINO GALLERY賞」受賞、「D-art, ART2022(名古屋、神戸、京都)」出展、「アートフェア東京2022」出展、「Wood Custom Guitars」コラボ商品発売、「歪hizumi」コラボ商品発売。’23年『ONBEAT』 Vol.19掲載、BSフジ「ブレイク前夜〜次世代の芸術家たち〜」出演、「ネスレ日本東京コマーシャルオフィス」アートコーディネート、「島村楽器」コラボ商品発売。’24年「第9回SHIBUYA ART AWARDS」入選、『アートコレクターズ』「完売作家2024」掲載、「Solaé Art Gallery Project vol.26」に協力。