2023.06.27
饅頭を二つに割る蛸Takaoki Tajima/田島 享央己
素材・技法:FRP/2023年
サイズ:22.0×11.5×11.5cm、ed:50
立体と平面を自由に行き来し始めた
田島享央己の新しい動きが見逃せない
田島享央己は木彫を中心に活動してきた。クマやネコ、パンダなど2頭身のキャラクターに自身を投影して、苦さの中に笑いを醸し出す絶妙な世界を作り上げたことで、海外でも注目されるようになった。どこか哀しみをたたえ、時に凶暴さを隠したキャラクターが立ち尽くしている姿に、共感が集まっている。「饅頭を二つに割る蛸」も丸で構成された単調なフォルムはアニメ的でありながら、彫り痕の残る表面はテクニカルな側面を強調していて、そのアンビバレントな存在が強烈な印象を与えている。近年、これまで木彫で作った立体作品のFRPを、エディションを限って製作している。
この「饅頭を二つに割る蛸」は、蛸が両手で饅頭を割っているというポーズのおかしさがまず目を引くが、蛸が何も表情に出さない様子は田島ならではの造形だ。田島の脳裏には、土人形の元祖と言われる伏見人形の「饅頭喰い」があった。「両親のどちらが好きか」と言われた子供が饅頭を二つに割って、「どっちがおいしいか、これと同じではないか」と問い返すというものだ。田島の代表作ともいえる「ピエタ」に始まり「牛乳を注ぐ女」や「饅頭喰い人形」など、名作から伝統工芸までも田島ワールドに引き込んでしまう幅広さを示している。蛸の無表情によって、かすかな笑いが生まれる。大人の感情を刺激する、不思議な奥行きを持つ作品だ。
『「LIFE」8点セット』Takaoki Tajima/田島 享央己
素材・技法:リトグラフ/2022年
サイズ: 30.0×40.0cm、ed:50
“立体作家”だけじゃもの足りない。
常に制作をするということ
田島享央己と聞いてまずは彫刻家の肩書が頭に浮かぶだろう。しかし、彼の作品に垣根はないし、彫刻家は肩書でしかない。doodle(落書きアート)からドローイング、ペインティングのユニークピース(1点物)からリノカットやリトグラフのエディションワークスまで田島の表現の幅は広がり続け、さまざまなマテリアルを使うことでより多くの鑑賞者へ届き、さらにインターナショナルな展開が待っているだろう。
「LIFE」は初めて田島が自身の半生を落とし込んだリトグラフシリーズだ。①~⑧の連作になっておりセットでストーリーを楽しむことができる。もちろん1点ずつ楽しむこともでき、それぞれに1エピソードが添付されている。世の風潮に逆らうように制作し続けた田島のロック魂がスパークし、このシリーズは生まれた。これはシャガールのリトグラフを制作していた工房で修業した摺師との協業だ。木彫の作家がリトグラフを手がけることで、余計なもののない画面になった。削るという木彫の作業を繰り返している影響か、画面の要素が削ぎ落とされ、色数も抑えられ、シンプルな表現になったのだろう。ペシミスティックな題材を“アチャラカ”に表現する高度なセンスが存分に発揮されている。メインキャラクターのウサギは田島自身であり、画面上にローマ字で書かれた言葉は彼の心の叫びであり、深く刺さった言葉たちだ。
田島 享央己◎gallery UG
1973年、千葉県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部彫刻科卒業。彼に備わったアウトローな気質は、彫刻だけでなく絵画領域にまでフィールドを広げ、幅広く活動している。2頭身の立体作品は、ニュートラルな立ち姿で見る者のさまざまな想像力をかき立て、人気に火を付けた。また、木彫作品からもうかがえる色彩感覚と空間構成のセンスが平面にも発揮されている。シンプルにかつ大胆に構成され、隣り合った色と色との関係性が際立った背景の中にあるキャラクターは何とも不思議な表情や動きで描かれている。ニューヨークで個展が開催されるなど、日本にとどまらず海外でも人気上昇中である。