Flower basket deepblue & purple

2023.06.27

Flower basket deepblue & purpleKaeru Tsukino/月乃 カエル

素材・技法:ミクストメディア/2023年
サイズ:33.3×33.3cm

立体的な画面が、
月乃カエルの高次元世界

システムエンジニアだったという月乃カエル。会社員の傍らアートを創作し始め、46歳のときに親や友人の死をきっかけに本格的な作家活動に入った。レジンを使って、この「Flower basket deepblue & purple」のような立体的な画面を生み出し、クラフトと絵画を融合した複雑な作品を作っている。「こういう絵は初めて見ました、という感想が多いですね。女性が描いたと思いました、と言われることは、ほぼ100%です」と月乃。IT企業での経験は作家活動を土台として支えている。パソコンを使うのに障壁がなく、アートに対して違うアプローチができるからだ。好きなモチーフは、雅号にあるカエルなどの水生動物。「カエルは水辺と陸上に住んでいて、2つの世界をつないでいます。そういう存在が好きですね」と月乃は言う。「対立構造を和らげる役割をアートが果たせれば」と考えている。

Flower basket deepblue & purple

画面はレジンでコーティングされたり、ラメやラインストーンで装飾されていて、ハイブリッドな表面になっている。「Flower basket deepblue & purple」では、中央には鏡を配し、デジタルプリントの花びら1枚1枚を手で切って貼り合わせ、立体化処理をしている。光を受けると膨らみがよく分かる。籠からこぼれるような表現が印象的だ。しかも、正面だけでなく斜めから見れば、表情が違ってくる。「花籠は亡くなった方がいるかもしれない世界に思いをはせる装置として存在するんだろうと考えました。それはアートと重なる存在に思えます。人間がなかなか感じられない世界に思いをはせるのがアートの役割の1つ。このシリーズは、ずっと作り続けられると思っています」と月乃は語る。

Flower basket deepblue & purple

月乃 カエル◎当代東京 CONTEMPORARY TOKYO

1963年、東京都生まれ。IT企業でシステムエンジニアとして働きながらアート活動を開始し、2019年より作家活動に専念。月乃が描き出す世界は、生き物たちが個々に「見る」世界の集合である。ゾウは人間よりはるか高い所から世界を見渡し、イルカは深い海の中で音波を使って周囲を認識する。同じ大地で生きていても、あらゆる生き物はそれぞれ違った見え方で世界を捉えている。月乃は、そんな生き物の意識や感情の重なりを描き出し、光を透かして人間には「見えない」世界をのぞかせてくれる。その思いをさまざまな素材を階層的に重ねることで、それぞれの個性が統合されたものとして表現している。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。