「déjà-vu-旅人の詩(うた)-」2022#1

2023.08.30

「déjà-vu-旅人の詩(うた)-」2022#1Tomohiro Mae/前 友洋

素材・技法:アクリル・キャンバス/2022年
サイズ:162.0×130.3cm

既視感のある街に浮かぶタマゴたち。
前友洋は違和感によって風景を提示する

前友洋(まえともひろ)の作品にはタマゴが必ず登場する。タマゴを描くようになったきっかけは、ぼうっと眺めていた銀座の街を行く車や人々が、まるでタマゴが行進しているように見えた体験から。細密に描かれた風景には前自身の思いが込められている。「ニューヨーク・マンハッタンの雨上がりの道と夕焼けをしっかり描くことがテーマの一つでした」と前は言う。初めて行ったニューヨークで、アート・マーケットの大きさやアーティストたちのパワーに打ちのめされて見た風景だ。そのとき、「この風景は日本に帰ったら絶対に描こう」と心に決めたという。2度目に訪れたニューヨークでは、自分もやれるかもしれないと思い直した。道に浮かぶタマゴが、どう見えるかは、見る人の心の状態で変わる。

「déjà-vu-旅人の詩(うた)-」2022#1

「この作品は、以前にもっと小さなサイズで描いたもの。小さな画面と同じ密度で大画面に描くことを自分に課した作品です」と前が話すように、細部まで精密に、存在感をもって描かれている。雨に濡れた路面やそこに映る自動車のテールランプなどの光がリアルに表現されているのが見どころだ。ここでは、光源を持つはずの自動車は描かれず、光の反射だけが存在している。ありえない風景がきっちりと描かれ、タマゴが浮かんでいる。「なぜそこに浮かんでいるのかは、見る人が物語にして完結してくれればいいと思っています」という前の言葉どおり、見る人ごとにこの作品から新しいストーリーが生まれそうだ。

「déjà-vu-旅人の詩(うた)-」2022#1

前 友洋◎SMART SHIP GALLERY

1976年、東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程修了。現在は東京都立川市にアトリエを構え、アクリル画を中心に制作活動をしている。彼の作品に描かれるタマゴは、日常風景の中の違和感を象徴している。皆それぞれの風景の中を生きているが、それぞれの風景とは思い出の中にある風景で、どこであるか明確でなくても自分が存在した場所だ。その風景にタマゴたちを描くことにより、日常の中に違和感を作り出し、よりそれらの風景を印象付けるという。タマゴの完璧なフォルムと不安定な形によって人々のメンタリティー、心の揺らぎ、喜怒哀楽を表現している。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。