2023.09.07
PhasesToko Shinoda/篠田 桃紅
素材・技法:肉筆/2011年
サイズ:103.0×76.0cm
時代と洋の東西を超えた
篠田桃紅の抽象表現
書道家として有名だった篠田桃紅(しのだとうこう)は1950年代にアメリカに渡った。平仮名や漢字の美しさを信じ、文字として読ませるのではなく、墨で表した美しい形として見てもらいたいと思っていた篠田は、日本の字が読めない人たちに作品を称賛された。アメリカで認められたのが抽象表現の作家へのターニングポイントとなった。2021年107歳で死去したが、105歳まで作品を作り続けたという。書道家だったころから、漢字の川の字の縦線を4、5本書いていたような人で、一貫して独自のスタイルを持っていた。篠田桃紅の作品はどんな場所にも収まる。それは、時間と空間を超越しているからだろう。現代的な洋風なところにも和室にも見事にはまる。埋没もけんかもせず、場所を作る。すべてを超越していて、まったく古く感じないのも驚きだ。
やや白っぽく見えるところは銀泥で描いている。銀泥とは銀の粉末を膠水で溶いたもので、銀の冷たいテクスチャーを感じる。メインとなるのは、音符のようにリズミカルなモチーフが連なっている部分。この黒いモチーフは一定の濃さで表現されているわけではなく、かすれているところがある。筆で、あるスピードを持って描かれているために生まれた、「かすれの美」がそこにある。この作品には、書の技を生かしながら抽象表現を成立させた、篠田の世界が凝縮している。
篠田 桃紅◎The Tolman Collectio
1913年、旧満州国大連生まれ。生後程無くして東京に転居し、父の指導の元、書と和漢の古典を学ぶ。独学で極めた書作のほか、第二次大戦後には墨象画に古今の詩歌を添わせた独特の画風を創り出す。1956年に米国へ渡り、ニューヨークやボストンなど各地で個展を開く。帰国後は、激しい作風から次第に抒情的で静かなものへと洗練されていった。1970年代より 2007年までの間、ザ・トールマン コレクション発行のオリジナル・エディションとして315種類以上のリトグラフを制作。ザ・トールマン コレクションを通して作品は世界の個人、美術館などに広く蒐集されている。