Box:N

2023.09.07

Box:NShoko Taruma/柞磨 祥子

素材・技法:漆・麻布・石膏・和紙・炭粉・アガチス材・乾漆技法/2014年
サイズ:H22.0×57.0×22.0cm

闇と溶け合う黒漆の
今までにない形を求める柞磨祥子

黒漆の美しさを最大限に生かすのが柞磨祥子(たるましょうこ)のテーマ。そのために今までにない漆の造形を考え抜いている。近年は、外国での展覧会も多い。漆の知識がない人が見ても魅力がある造形だからだろう。「昔の職人が作った印籠(いんろう)に興味を持ちました。職人が費やした膨大な時間を、私の漆の精神性に引き継いでいきたい」と言う柞磨。「作家・谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に、漆と闇が溶け合う描写があります。それは日本独特の美意識です。漆は薄暗い日本家屋で使われてきて、紫外線に弱いものです。谷崎に見いだされた美に共感しています」。あるお寺の展示で、庭からの自然光が入る座敷の床の間に作品を置いたところ、黒漆の輪郭が闇に溶けていった。「この境界のなさは冥想の世界に近い」と言う柞磨は、黒漆に人の内面とのシンクロも感じているようだ。

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この作品では、口から流れ出している液体のような部分を乾漆で作った。乾漆とは、型の上に麻布を何層にも漆で貼り固めて形を作る技法。西域や中国から伝わり、奈良時代には仏像や人物像を作るのによく使われた。柞磨は発泡スチロールを使って動きのある形を作り、麻布を貼って漆をかけている。黒漆が最も美しく見える形を追求してこのようになったという。見る人が持つ漆のイメージが変わり、漆の本質や可能性とは何かを考えさせられる作品だ。

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柞磨 祥子◎同時代ギャラリーGARAGE

1991年、広島県生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻(漆工)修了。昔から日本人が自然の中で培ってきた美意識の一つに、「闇」の中で美を見いだす美しい感性がある。柞磨は漆の黒の深みに魅せられ、液体のように自由な形態を「陰翳」の現代彫刻として表現している。また狩野派の重要文化財と同じ空間で発表した、「幽玄」なる精神性と溶け合う金箔シリーズなども手掛ける。そこで表現されるのは光によって変化する深い黒、そして歴史の流れと流動的な流れの形。日本と東アジアの古き良きものを取り込み、漆の持つ世界でも類を見ない深い輝きを現代美術に昇華させている。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。