2023.09.07
Chance, the 5 of Spades/SwordsMiho Iida/飯田 美穂
素材・技法:麻布に油絵の具/2023年
サイズ:91.0×116.5×2.6cm
飯田美穂の軽やかな心には
西洋名画はこのように見える
飯田美穂(いいだみほ)は西洋名画の歴史上に自分があるとして、名画に迫っている。名画は多くの人の記憶の中にだけ存在する。そこで飯田は名画の模写ではなく、頭の中のイメージを描いている。この作品はマネの「草上の昼食」をモチーフとしているが、タッチはとても軽くなっている。絵具は薄く塗られ、下地や余白が見える。作家特有の線や色使いが表れていて、これが好意的に受け止められるという。軽やかで明るく、油絵の重さが感じられないので、現代人にも親近感が湧くということなのだろう。ここにはマネのモチーフが現代的に見えるという驚きもある。コンテンポラリーとは何かを示唆する意欲的な作品だ。
飯田の作品では、背景や人物の顔が省略されている。特に顔は記号として表現していて、3つの点であったり、アルファベットや数字で表現されるときもある。「Chance」シリーズは、名画トランプからランダムに選んで描く、チャンス・オペレーション的なもの。アトランダムに選ばれたスペードの5のカードにあったのが、マネの「草上の昼食」だった。作品サイズもランダムで、元のトランプの形にはなっていない。歴史のある部分と突然出会うという、現代の美術との接点を再現している。このシリーズはこれまで10作程度作っているが、選んだトランプのカードも販売した絵と一緒に手放している。
飯田 美穂◎FINCH ARTS
1991年、愛知県生まれ。京都造形芸術大学大学院芸術専攻芸術研究科ペインティング領域油画コース修了。絵画への愛とオールド・マスターたちへのリスペクトを込めて多様な名画を引用し、抽象化されたイメージを描く。西洋絵画の技術と構図を引用しているが、登場人物、特にその表情は簡略化され、記号的に描かれる。柔らかい色使いとポップな絵柄が不思議な魅力となっている。飯田が生み出す、西洋絵画を引用しながらもオリジナリティーを感じるペインティングは、コレクターからの人気も高く、最近は展覧会を開催するたびに完売となることが多いという