INSIDE/desire01

2023.09.07

INSIDE/desire01Toru Nakamura/ナカムラ トヲル

素材・技法:Acrylic on panel/2023年
サイズ:55.9×44.3×5.0cm

手に入らないものを描く、
ナカムラトヲルの重層的な画面

「desireは日本語に訳すと欲望ですが、手に入らない何かを求める様子を表現したいと思いました」と言うナカムラトヲル。アクリル絵具、スプレー、マーカーを駆使し、マスキングで部分を区切ってレイヤーを作りながら描くので、重層的な仕上がりになっている。複雑な表面には、奥行きが感じられるほど。全体の印象はポップで、しかも抽象的だ。画面に目を描き始めたのは近年のこと。「元々は抽象画を描いていたんですが、それを背景にしてみた。目を描くことは、鑑賞者が鏡を見るようなイメージです」と語る。目は注意を引き、ついでこの目が見ている左下をつい見てしまう。目には視線を誘導する力もある。「作品の中に、楽しい、悲しい、うれしいといった感情や思うことを入れたいと考えています。明るい感情よりネガティブなもののほうが描きやすいですね。暗さは、どこか自分の中をのぞくような気がします」とナカムラは言っている。

INSIDE/desire01

人間のドロドロしている感情をどうやったら表現できるかを考えた結果、ナカムラはアクリル絵具をチューブから直接画面に出して使うことにした。そして絵具が乾かないうちにアクリルパネルを貼り付けている。絵具そのものが持つ流動性が感じられて、生々しさがあり、それが感情の動きを表している。アクリル絵具なので、乾くとパネルも押さえられないため、制作にスピード感が必要となる。色合わせは直感的に行われていて、勢いのあるポップさはその即興性の結果でもある。

INSIDE/desire01

ナカムラ トヲル◎GALLERY ISHIKAWA

1981年、宮城県生まれ。30歳から独学で絵を描き始める。その約3年後の2013年に、アメリカ・フロリダ州のマイアミで開催されるアートショー「Spectrum Miami」に作品を応募し世界デビューを飾る。独学ゆえのオリジナリティーあふれる技法から生み出されるのは、自身の作風のベースとなっているアブストラクト(抽象化)とポップ。2つの要素を画面上で混在させ、ストリート感やなじみのあるカートゥーンなどの要素を引用。ただポップなだけではないグラフィカルなスタイルで作品を制作している。東京を中心に活動しアパレルとのコラボや企業へのグラフィック提供も行っている。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。