2023.06.19
SomedayToko Shinoda/篠田 桃紅
素材・技法:リトグラフ/1998年
サイズ:103.0×76.0cm、ed:35
篠田桃紅が書から生み出した墨象画は、
意味から自由になれる一枚
書家として活躍していた篠田桃紅はアメリカに渡り、抽象表現に出合って衝撃を受ける。それによって、意味と離れられない書から自由になりながら、西洋にない画材である墨を駆使して、独自の世界を切り開いていった。ザ・トールマン コレクションは、生前の桃紅との長年の親交によって、肉筆作品とリトグラフ作品を扱っている。肉筆は、貴重な明の時代の古墨を使うなどして、墨の微妙な色や濃淡の面白さを表現。線にこだわり続けた篠田桃紅は、わざわざ扱いにくい毛の長い筆を注文し、自分の思いのままにならない線を毎日書き続けたという。
「Someday」と名付けられた作品は、刷り上がったリトグラフに墨や金泥で加筆したもの。桃紅はリトグラフにさらに手を入れていた。少し硬い調子で描かれた線が桃紅の姿勢を物語るようだ。墨ならではのかすれや余白を楽しむことができるリトグラフは名手・木村希八に依頼したもの。淡墨表現の難しさをクリアした技術も見どころだ。実は桃紅はタイトルを付けることに消極的で、このタイトルもギャラリーが付けて桃紅が許可したものだ。詩的なタイトルは、意味を付けられるのを拒む作家の姿勢を代弁している。
篠田 桃紅◎The Tolman Collection
1913年、旧満州国大連生まれ。生後程無くして東京に転居し、父の指導の元、書と和漢の古典を学ぶ。独学で極めた書作のほか、第二次大戦後には墨象画に古今の詩歌を添わせた独特の画風を創り出す。1956年に米国へ渡り、ニューヨークやボストンなど各地で個展を開く。帰国後は、激しい作風から次第に抒情的で静かなものへと洗練されていった。1970年代より 2007年までの間、ザ・トールマン コレクション発行のオリジナル・エディションとして315種類以上のリトグラフを制作。ザ・トールマン コレクションを通して作品は世界の個人、美術館などに広く蒐集されている。