2024.04.03
long coastYumina Koumura/甲村 有未菜
素材・技法:麻紙・岩絵の具・箔・カラメル/2024年
サイズ:H 33.3×W22.0×D1.8cm(P4号)
複雑なディテールとシンプルな構図で
ノスタルジーを誘う甲村有未菜の風景
「long coast」と題された風景は、海岸線をメインにしたシンプルな構図だが、質感が個性的だ。甲村有未菜はこの独自の質感で、観る側に豊かな印象を与えてくれる。「海をモチーフにするときも最小限の要素で構成して、一眼では海とわからないくらいにしています。見る人の記憶の中の風景につながるといいと思っています」と甲村。岩絵の具の質感が好きだという。「旅が好きです。海も好きで、その姿を借りて見えないもの、存在感とか時間とかを描きたいと思っています」という。ぽつんと描かれた船によって、人の動き、気配も感じられる。ディテールを見れば見るほど、確かな造形と手法の日本画家として人気を得ている理由がわかってくる作品だ。
この作品で目をひくのは海岸線だ。砂浜を岩絵の具と銀箔で描いているが、岩絵の具は3層重ねているという。海岸線の海側にマスキングテープを貼っておき、岩絵の具を塗った後に取ると、半立体のようになる。その岩絵の具を削り取ったり、水で剥ぎ取るなどして複雑な表情に仕上げている。海の下半分は色が変わったような印象を与える。ここにはカラメルをのせて、懐かしい色合いにしている。カラメルは半透明で岩絵の具との相性もいいという。何層も絵の具を重ねることで制作する時間も作品に重ねることになっている。甲村は、さまざまな手法を楽しみながら、ノスタルジックな画面をつくり出しているようだ。
甲村 有未菜◎ギャラリーMOS
1992年、愛知県生まれ。2017年、愛知県立芸術大学日本画専攻卒業。彼女の作品は優しい色と岩絵の具の質感、直線的な線による風景が特徴。多くを描かないことで、その場の空気感がより伝わる。あるときは時間の流れを感じ、それは過去への想起と未来を想像させる映画のような作品。性別に関わらず、多くの世代に支持を得る。作家自身は好奇心旺盛な笑顔あふれる若手でありながら、どこか達観したところもあり、作品と通ずる一面を感じさせる。近年各地のアートフェアでさらに好評を得て、完売作家の仲間入りを果たす。