2024.06.20
犬を持つWataru Uchida/内田 亘
素材・技法:アクリル・シルクスクリーン/2023年
サイズ:H46.7×W31.7cm、ed:50
最少の描線で最大の情報を描き出す
内田亘のミニマルな世界
内田亘は、東京藝術大学で描画研究室に所属していた。この研究室は、日本画家の中島千波氏が主宰しており、現在活躍する若手画家を輩出したことで知られている。初期には写実的なリアリティーを追求する作風だった内田だが、現在はその真逆とも言えるミニマルな線画をきわめている。この作品のテーマは、「犬は、人間に抱かれると、脱力してすべてを諦めたようになる」というもの。画面には、犬の脱力感を表現するために最小限の線が引かれている。内田は世の中の気になること、変なことを抽出する「考える作家」だ。その絶妙なセンスと着眼点を楽しんでほしい。
最少の描線で、最大の情報を表現するのが内田のドローイングだ。犬の動作をモチーフに描いた多くの試みの中から、見る人が納得し、しかも魅力ある形を探り出した。犬の顔は、単純化された耳と目と鼻で構成されているが、抵抗できない状態になった犬の情けない表情を捉えている。くったりと垂れた前脚は先細りの棒状で、まったくディテールがないが、十二分に脱力感を表している。原画は3cm四方程度のごく小さいもの。内田は、小さく描くことも重要な要素だと考えている。拡大しても荒れた印象にならないように極細のペンを使っている。
内田 亘◎八犬堂
1989年三重県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を修了した後に、ドイツ・ベルリンに滞在して制作活動。在学中は日本画家・中島千波氏が率いる描画研究室に在籍していた。現在は日本を拠点に絵画制作を行っている。2013年「KENZAN2013」八犬堂賞、2016年「KENZAN2016」C-Depot賞、2017年東京藝術大学卒業・修了作品展デザインN賞を受賞。デザインN賞は、中島千波氏が私費を投じて設けた賞。2021年には初のドローイング集「COLORFUL」を出版し、活動の幅をさらに広げている。