このゆびとまれ

2023.06.22

このゆびとまれYuzoh Etoh/江藤 雄造

素材・技法:本漆・パネル/2023年
サイズ:90.0×90.0cm

伝統の漆がアートになる瞬間。
江藤雄造の技と、未来を見る眼

この作品は地も金魚もすべて本漆で描かれている。「このゆびとまれ」というタイトルは、金魚が画面の左上に集まっていくところを示したもの。「なんで金魚がここに集まっているのか、ちょっと想像してもらいたいですね」といたずらっぽく言う江藤。この絵柄には縁起ものの意味も込めているという。金魚は金運を招くそうだ。アクリルに金魚を描く作品で人気を得てきた江藤が、漆を使った作品で問うのは、伝統工芸とアートの自然な融合。この作品も、視線が行く先に、漆の仕事の見事さが見えてくる。

このゆびとまれ

江藤は漆芸を家業とする家に生まれ、中学時代から家の手伝いをしてきたという。漆はもちろんのこと、刷毛の扱いや漆を固めるための温度、湿度に関することも長年学んできた。広い平面に刷毛目がまったくない状態に塗れる技術は、江藤が得意とするもの。「地には黒漆を4回塗っています。金魚を描いているのは赤や黄色の色漆と呼ばれるものです。面相筆のような細い筆で描きますが、あまりディテールを描き込みすぎないようにしています。この作品は、表現を古典風に落とし込んで、漆らしいものにしています」と江藤。漆を知る人の目にもとまるはずだ。色漆は時間が経つと色鮮やかになるという。半年もすると赤はもっと赤くなる。経年変化も楽しめるのが、漆の魅力でもある。

このゆびとまれ

江藤雄造◎GALLERY CLEF

1982年、兵庫県生まれ。兵庫県龍野実業高校デザイン科を卒業し、漆芸家である父親の國雄氏に師事。その後香川漆芸研究所に入所しさらに漆芸を学ぶ。縄文の昔から使用されている着色・接着・補強材である漆を用い、その伝統技法を継承しながら、さまざまな素材を使用して新しい漆の可能性を引き出し、縁起物モチーフの平面作品を描く。その卓越した漆の技術を生かし、国指定重要文化財兵庫県「相楽園 船屋形」や世界遺産に指定された奈良県「春日大社」を始め各地の重要文化財の修復に携わるほか、金継ぎ技術の普及にも尽力している。日本工芸会研究会員・兵庫県工芸作家協会理事。

作品に込められた「想い」それぞれの物語

作品を深く理解して、もっと好きになる。制作の背景まで
踏み込んで、アーティストの想いを紐解きます。